質問の回答

先日コメントに質問がありましたが、全体的なお話でしたので質問を題材として少し書きたいと思います。

平成25年商標法について(原則)

平成25年商標法第3問に関してです。

コメント元:

まず、こういう問題について考えるときは「受験生としてどのように回答を出すべきか?」という視点を忘れないでください。
ネットで巡回していると、受験生と思える方が、弁理士や他の受験生と戦っていることをときどき見たりします。また、有る問題に対して、色々な学説・判例に基づいて考えられています。

これが合格後であれば実務的な観点、研究的な観点として有意義だと思います。しかし、受験生である以上、まずは合格することを念頭に置くべきであり、すなわち「点数が取れる回答」を考えるべきです。

ここでいう点数が取れる回答というのは、題意にそっており、かつ、他の多くの受験生が書く内容です。どんなに良いことを書いても、少数派の意見は論文試験では不利となります。したがって書きやすい答案、点数のつきやすい答案を意識すべきです。

今回の問題は、単純に4条1項11号の適用をあっさりと考えるのが素直だと思います。そうすると、

  • 先願商標において、図形が要部(または図名+文字が一体となっている)のであれば、同じ役務については4条1項11号適用無し
  • 先願商標において、例外的に文字部分からも識別力があると認められる場合には4条1項11号適用有り
  • 先願商標と非類似の指定商品「牛丼」については、11号の適用はないが15号(19号)の適用がある場合がある

と書けば十分だと(少なくとも合格点はつく)思います。

以下少し発展的な内容です。

発展的な内容1

地域団体商標と、先願商標との関係は、商標審査便覧(審査基準ではありません)の「47.101.06」に記載があります。

2.地域団体商標と同一又は類似の文字部分を含む他人の先後願商標との関係
(1)他人の先願商標との関係
地域団体商標の商標登録出願より先に出願された商標で、その地域団体商標と同一又は類似の文字と識別力のある図形又は文字との組み合わせにより登録された商標が存在する場合、原則として、先願の登録商標はその図形等の部分が商標の要部であり、地域団体商標とは類似しないと判断されることから、後願の地域団体商標の商標登録出願には、商標法第4条第1項第11号を適用しない。
例外として、先願の登録商標中の地域団体商標と同一又は類似の文字部分が周知となっており、権利者の出所を表示するものと認められる場合には、その登録商標と類似するとして、後願の地域団体商標の商標登録出願に商標法第4条第1項第11号を適用する。

おそらく、これをある程度踏まえていると思いますが、そうかといって審査便覧まで学習する必要があるかというとそれは違うと思います。上述したように、条文の基本的な考え方で解答できる範囲で合格点が十分につく答案を書けると思います。受験生である以上、ある程度から踏み込まないで考えるというスタンスが重要です。

発展的な内容2

発展的な内容として、そもそも丙の「ABC牛丼」に識別力があるという状態は起こりえるのか?という点を検討してみます。

  • 「ABC」=地名、「牛丼」=普通名称とすると3条1項3号に該当しなかったのか?
  • もし3条1項3号に該当し、無効理由がないとすると3条2項に該当。3条2項に該当するのであれば、「ABC牛丼」は丙の著名商標となり、甲は地域団体商標を受けることが出来ないのではないか?
  • また、問題文から丙以外も使っている=3条2項の適用はない?

そうなると、今度は「ABC」=地名が崩れるか、「牛丼」=普通名称のどちらかが崩れると思います。

  • 「牛丼」が「牛丼の提供」との関係で普通名称(慣用商標)となるのか?必ずしも牛丼屋の名称として用いられる訳では無い。ただ、地域団体商標として出願を検討していることから、少なくとも慣用表現として考えて良い(例えば、奥美濃カレー、出石皿そば、姫路おでん等も役務で登録されている)
  • 「ABC」が需要者にとって「地名」と認識されない。そもそも3条1項3号等は地名だからといって一律拒絶とはならない(審査基準では、地名はある程度の著名性が要件とされている)。
  • また、「ABC牛丼」でABCの牛肉を用いた牛丼と需要者が認識するのであれば、指定役務「牛丼の提供」では4条1項16号違反があるはず。無効理由がない=4条1項16号違反ではないことからも、そもそも地名と認識出来ないのではないか?

こう考えると、結論としては「ABC牛丼」という文字が、丙の登録商標の登録時点においては、「ABC」が地名と需要者は認識できない状態であったと考えるのが一番しっくりきそうです。そうすると、「ABC牛丼」は「ABC産の牛肉を用いた牛丼である」と認識出来ない状態であり、この場合には「ABC牛丼」が要部であっても登録出来ると判断できそうです。

ここまで論文に書けば明らかに題意を外していますが、「事例としてあり得るのか?」というのを少し検討してみました。