不実施と特許法102条の適用について

先日ちょっと受講生と話をしていたときに気になった話題です。特許法102条第2項について、特許権者が実施をしていない場合に、損害の推定規定を受けられるか?という話題です。

例えば、短答試験の過去問では以下のように出題されています。

[15-54-5]特許法第102条第2項は、侵害者が侵害行為により得た利益の額を、特許権者が受けた損害の額と推定しているが、特許権者は、特許権者自身が当該特許発明を実施していない場合には、同項の推定規定の適用を受けることができない。

この問題ですが、従来は「○」で問題ありませんでした。簡単に言えば、実施をしていない以上、損害が発生していないという理由です。

ごみ貯蔵機器事件

ところが、平成25年2月1日に「ごみ貯蔵機器事件」(平成24年(ネ)10015号、知財高裁)という判決がでました。この判決では、「特許法102条第2項の適用要件に不実施であるか否かは関係無い」という内容の判決でした。なお、知財高裁の判決でも特に重要な判決であることから「大合議事件」として取り扱われています。

さて、判決の要旨ですが、

特許法102条2項は,「特許権者・・・が故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において,その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,その利益の額は,特許権者・・・が受けた損害の額と推定する。」と規定する。
特許法102条2項は,民法の原則の下では,特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには,特許権者において,損害の発生及び額,これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張,立証しなければならないところ,その立証等には困難が伴い,その結果,妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして,侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは,その利益額を特許権者の損害額と推定するとして,立証の困難性の軽減を図った規定である。このように,特許法102条2項は,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定であって,その効果も推定にすぎないことからすれば,同項を適用するための要件を,殊更厳格なものとする合理的な理由はないというべきである。
したがって,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法102条2項の適用が認められると解すべきであり,特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情は,推定された損害額を覆滅する事情として考慮されるとするのが相当である。そして,後に述べるとおり,特許法102条2項の適用に当たり,特許権者において,当該特許発明を実施していることを要件とするものではないというべきである。

(中略)

特許法102条2項には,特許権者が当該特許発明の実施をしていることを要する旨の文言は存在しないこと,同項は,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられたものであり,また,推定規定であることに照らすならば,同項を適用するに当たって,殊更厳格な要件を課すことは妥当を欠くというべきであることなどを総合すれば,特許権者が当該特許発明を実施していることは,同項を適用するための要件とはいえない。
上記のとおり,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。
したがって,本件においては,1審原告の上記行為が特許法2条3項所定の「実施」に当たるか否かにかかわらず,同法102条2項を適用することができる。また,このように解したとしても,本件特許権の効力を日本国外に及ぼすものではなく,いわゆる属地主義の原則に反するとはいえない。

となっております。かなり特殊な事案なのですが、不実施の場合でも102条第2項が適用できるという点で画期的な判決となっています。
この判決を踏まえると、平成15年の問題は解答が「×」となります。

【裁判所サイト】
判決の要旨:http://www.ip.courts.go.jp/hanrei/pdf1/g_panel/10015_you.pdf
判決の全文:http://www.ip.courts.go.jp/hanrei/pdf1/g_panel/10015_zen.pdf