商標の侵害相談があった場合

さて、今日は弁理士試験と関係の無い話を(まったく関係無い?ので、受験生はそのつもりで)

例えば、以下の様な問題が出題された場合、甲はそのまま使用出来るでしょうか?(甲から相談を受けたと思って下さい)

甲は、東京都北区十条における商店街で「としま屋」という名前でパン屋を営んでおり、パンの販売を行っている。「としま屋」とは、既に開業してから30年以上経っており商店街では少し知られているが、雑誌やTVにも取り上げられたことは無かった。なお、「としま屋」は、東京都の旧地名の北豊島郡から由来している名前である。
ある日、登録商標「としま屋」(指定役務:第35類「菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」。登録日、平成20年4月)の商標権者乙から、権利侵害であるとして、使用を中止するよう警告書が送られてきた。
甲から相談を受けた弁理士丙が調べたところ、乙の登録商標に無効理由は無く、乙は東京都世田谷区豪徳寺にて実際に「としま屋」というパン屋を営んでいた。
この場合、弁理士丙は甲に対してどのようにアドバイスすべきか。


弁理士受験生としての解答は「使用出来ない」が適切だと思います。商標法における先使用権には「周知性」の要件が入ります。
この問題では、東京都北区のそれも多くの人が知らない「十条」という場所でパン屋を営んでいるに過ぎません。知られているのも商店街の人たちだけ。これでは周知性を獲得しているとは言えないでしょう。
また、乙の商標に無効理由もなく、不使用取消審判で取り消す事も出来なさそうです。したがって、お手上げです。使用中止、名称変更をせざる得ないでしょう。

「30年以上やっているのに!」と思うかも知れませんが、それが嫌なら商標権を取得して下さいというのが商標法です。


さて、受験生ならそれで良いのですが、実務的にはというとこれは甲に正当権原があります。それは「継続的使用権」という使用権です。
ポイントは、「小売等」の指定役務ということです。小売等の規定が入ったのが平成18年改正(平成19年4月1日施行)です。この法律施行前から、日本国内において不正競争の目的以外で継続して商標の使用をしている場合は、その範囲で使用権が認められるのです(附則6条)。この点については、例えば平成18年改正本P.90〜に記載があります。

この継続的使用権という使用権は、新しい制度が入ったときに附則として入る制度です。その前は役務商標が改正で入ったときも同様の規定が出来ています。ポイントは周知性が要件となっていないこと、同一の範囲での使用しか認められないことです。ちなみに、混同防止表示請求も可能です。
今度改正予定がある音響商標等についても、もしかしたら入るかもしれません。

受験生としては必要の無い知識ですが、合格後には(実務をやる上では)知っておかないといけない知識です(本試験は、この辺の適用がないように作られています)。