パリ条約における客体の同一性

質問があったのでお答えします。
パリ条約による優先権ですが、パリ4条Aにより規定されています。

ここで、第1国出願Xと、第2国出願Yとの客体の内容についてよく質問があります。
すなわち、出願Yに記載されている内容について、特許の場合はパリ4条Hに規定があります。

出願Yに記載されている内容のうち、出願Xに記載されている部分と同一の箇所については優先権を認めるということです。この場合、出願X=出願Yである必要は必ずしもなく、出願X≧出願Yとなっていれば良いのです。
「出願Xがイ、出願Yがイロ」という例は考えられます(この場合イについてのみ優先権が認められる)。
しかし、「出願Xがイロ、出願Yがイ」というのはメリットも薄いですし、あまり想定できないので出題もあまり有りません(この場合もイについて優先権が認められる)。
分割出願・変更出願は客体が同一(新しいものが含まれてはいけない)ので、その扱いと混同しないことが必要です。

さて、特許は規定があるのですが、商標においてはパリ条約に明確に規定がないので、各国の運用となります。
例えば、出願Xが指定商品「イ」、出願Yが指定商品「イロ」と出願した場合です。

日本の場合は、出願全体に優先権を認めないと運用しています。商標審査便覧15.01に「優先権が認められない出願の取扱い」という規定があります。

 出願人が優先権を主張して商標登録出願してきた場合において、優先権主張の証明書に記載のある商品又は役務がその出願に係る商品又は役務中に含まれない場合、又は優先権主張の証明書に添付の商標がその商標登録出願の商標と一致しない場合には、その出願は優先権を有する商標登録出願とは認められないことから、その優先権主張に係る商標登録出願を通常の商標登録出願として処理するものとし、商標登録出願人に当該優先権の効果を認めない旨及びその理由を通知する。

平成28年改正により、認められることになっています。

出願人が優先権を主張して商標登録出願してきた場合において、優先権が認められるためには、以下(1)から(4)の要件を満たす必要がある。
要件を満たさない場合には、当該優先権主張を伴う商標登録出願を通常の商標登録出願として処理するものとし、出願人又は代理人に優先権を認めない旨及びその理由を通知する。
なお、この通知は必ずしも単独で行う必要はなく、最初に発する拒絶理由通知等の通知(登録査定を含む。)をするときにこれに書き添えて行ってもよいものとする。
(1)優先権主張を伴う商標登録出願の出願人が、優先権証明書に示された出願人と同一人又はその承継人であること(パリ条約4条A(1))
(2)優先権主張を伴う商標登録出願の出願日が、優先期間内(優先権主張の基礎出願の出願日から6月以内)であること(同条C(1))
(3)優先権主張を伴う商標登録出願の願書に記載された商標と、優先権証明書に記載された商標が一致すること
(4)優先権主張を伴う商標登録出願に係る指定商品又は指定役務の全部又は一部が優先権証明書に示された指定商品又は指定役務に含まれていること