「者」と「もの」との違いについて

「者」と「もの」との違いについて質問があったのでお答えします。

いくつか理由はありますが、一般的には「者」と言われると法律的に権利義務の主体、自然人、法人を言います。
「もの」はもっと広い概念です。したがって、法人格なき社団を含みます。
これが区別されている場合の一般的な意味です。

さて、質問があった特79条と、特79条の2、特80条との違いはまた別になります。

特許法79条
特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。

特許法79条の2
第74条第1項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録の際現にその特許権、その特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての通常実施権を有していた者であつて、その特許権の移転の登録前に、特許が第123条第1項第2号に規定する要件に該当すること(その特許が第38条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第6号に規定する要件に該当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権を有する。

この「者」と「もの」との違いは「者」を限定しているときに使う法律テクニックです。
すなわち、特79条は先使用権者としては1人しか登場してきません。
しかし、特79条の2は、「特許権、その特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての通常実施権を有していた者であつて」とまず複数の人達がいて、その中で、「その特許権の移転の登録前に、特許が第123条第1項第2号に規定する要件に該当すること(その特許が第38条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第6号に規定する要件に該当することを知らない」で実施している人を示しています。
複数該当する「者」がいて、更にその中の人を特定するので「もの」と表現を変えています。

これは特80条も同様で、1〜3号に該当する「者」がまずいて、その中で柱書に該当する「もの」を特定しているのです。

法律テクニックなので、あまり重要ではないですが、条文の細かい言葉に注意して見ることは大切です。