青本 商8条について

青本の商8条の記載について質問が多かったので、まとめてお答えしておきます。該当箇所は、8条の最後の部分、防護標章との関係についてです。

なお、本条には他人の防護標章登録出願と競合した場合を規定してないが、この場合には、商標登録出願に対し登録が行われるときには、その指定商品又は指定役務と防護標章登録出願に係る登録商標についての指定商品又は指定役務とは必ず混同を生じないし、防護標章登録出願されるような場合には、それと競合する商標登録出願に係る指定商品又は指定役務とその防護標章登録出願に係る登録商標についての指定商品又は指定役務とは必ず混同を生ずるので、いずれも先後願を問題にするまでもなく他の登録要件で処理(4条1項15号、64条)できるからである。

まず、当該記載は、8条についての解説です。通常の商標登録出願における先後願の解説となります。
この記載は商標登録出願が「登録される場合」と「登録されない場合」の2つの部分に分けて読んだ方がよろしいかと思います。

登録される場合(前半)

本条には他人の防護標章登録出願と競合した場合を規定してないが、この場合には、商標登録出願に対し登録が行われるときには、その指定商品又は指定役務と防護標章登録出願に係る登録商標についての指定商品又は指定役務とは必ず混同を生じないし、

例えば、商標「Realforce」、第30類、指定商品「コーヒー」に出願Xをしたとします。

おそらく、「新感覚のコーヒー「Realforce」」というコーヒーが売られていたとしても、殆どの人が何の気持ちもない=出所混同が生じないと思います。

確かに、秋葉原や(大阪)日本橋で販売されれば、「ついに東プレもコーヒーも出すのか!」って思う人もいるでしょうが、かなり一部ということです。

Realforce」は、東プレ株式会社が販売するキーボードのブランドです。その筋(どこのですか)では周知で、商標も第9類「電子応用機械器具及びその部品」「コンピュータ用キーボード」等で登録されています。

仮に、「Realforce」を、指定商品「コーヒー」について、防護標章登録出願をしたら認められるでしょうか。この場合、混同を生じませんので、防護標章登録は認められません。そのため、出願Xは他の要件で問題が無ければ登録になります。すなわち、出願Xが登録される場合は、防護標章登録出願に係る登録商標、この場合は「Realforce」(コンピュータ用キーボード)の登録商標とは混同を生じていません。

登録されない場合(後半)

防護標章登録出願されるような場合には、それと競合する商標登録出願に係る指定商品又は指定役務とその防護標章登録出願に係る登録商標についての指定商品又は指定役務とは必ず混同を生ずるので

さて、今度は「SONY」を、指定商品「コーヒー」について出願Yをしたとします。そうすると、多くの人は、「あっ、ソニーグループがついに飲料にも進出したのかな?」と感じる事となります。少なくとも広義の混同が生じます。

この場合、ソニー株式会社の「SONY」が、指定商品「コーヒー」で防護標章登録出願をすれば、登録されることとなります。「防護標章登録出願されるような場合」=「混同を生じるから出願」をするわけです。
そうなると、出願Yは仮に防護標章が登録されなくても、そもそも混同を生じますので4条1項15号違反となり、拒絶される商標となります。また、防護登録後であれば、4条1項12号に該当します。
ということで、防護標章登録出願と、通常の商標登録出願とは、先後願を規定しなくても、他の条文で処理できるため規定されていなくても良いというのが青本の記載になります。

注釈

現実には「SONY」については、指定商品「コーヒー」について、通常の商標登録(第3342918号)も防護標章登録(第618689号防護第31号)もされていますが、解りやすい商標ということで説明しています。