進歩性の判例

気になる判例について個人的なメモです。平成26年3月25日 知財高判 平成25年(行ケ)10193号。
進歩性の適用について。特許庁が同じと判断しがちな技術分野を、裁判所が否定した事例。

審決は,「ソレノイド駆動ポンプを含む電気機器や電気システムにおいて,設計上その使用に適した電圧が設定されていることは電気機器・システムにおける技術常識である。」,「交流電源を用いる電気機器において,電源電圧が異なっても同じ機器を使用できるように対処しようとする課題は周知の課題…であるから,パソコン・家電用品に限らず,ポンプ等交流電源を用いるものならば当然要求される課題である。また,刊行物1発明の課題も入力電圧の異なる複数の電源に対応することである。」,「交流電源を用いる機器であるソレノイド駆動ポンプは,…従来から周知の技術である。」,「刊行物2には,ソレノイドを用いるポンプ…の入力電圧が異なっても…,オン・オフのデューティを制御…する信号…を用いて所望の直流電圧を得ることが記載されている」,「自動車用の燃料ポンプとしてポンプ動作体…を往復動作するためにソレノイドが用いられるものは,…常套手段である」とし,「入力電圧の異なる複数の電源に対応することを課題とする刊行物1発明を,刊行物2記載の事項,上記技術常識,上記周知の課題,上記周知の技術及び上記常套手段の下,適用対象を本件訂正発明のソレノイド駆動ポンプとし,本件訂正発明の上記相違点1に係る構成とすることは当業者であれば容易に想到し得ることと認められる。」(審決書35〜37頁)と判断した。
しかしながら,審決の上記判断は,次に述べるとおり誤りである。
ア 本件訂正発明は,前記(1)のとおり,ソレノイド駆動ポンプの制御回路に関する発明であり,ポンプの技術分野に属するものであって,その課題は,ユーザーが電源電圧の選択を必要とせず,かつ,種類が低減され,したがって,管理が容易なソレノイド駆動ポンプの制御回路を提供することである。
これに対し,刊行物1発明は,前記(2)のとおり,パソコン等の電子機器に内蔵されたDC/DCコンバータの制御回路に関する発明であり,電子機器の技術分野に属する発明であって,その課題は,利用者の経済的負担を軽減でき,設置面積が少なくて済み,かつ様々な電源に対応可能な電源供給手段を備えた電子機器を提供することにある。
このように,刊行物1発明は,電子機器の技術分野に属するものであるのに対し,本件訂正発明はポンプの技術分野に属するものであるから,両者の技術分野は明らかに相違する。しかるに,審決は,上記のとおり,交流電源を用いる電気機器において,電源電圧が異なっていても同じ機器を使用できるようにするとの課題は周知の課題であることを理由として,ソレノイド駆動ポンプにも上記課題があるとする。しかし,これは技術分野を特定しない交流電源を用いる電気機器における課題であって,ポンプの技術分野における課題ではないし,ポンプの技術分野において当然に要求される課題であることを示す証拠もない。
そもそも,本件訂正発明が属するポンプの技術分野における当業者が,ポンプとは明らかに技術分野が異なる電子機器に関する刊行物1に接するかどうかも疑問であり,また,仮に,ポンプの技術分野における当業者が刊行物1に接したとしても,刊行物1発明は,携帯型パーソナルコンピュータ等の電子機器に関するものであり,刊行物1には,ポンプについての記載はなく,刊行物1発明が技術分野の異なるポンプに対しても適用可能であることについてはその記載もなければ示唆もない。したがって,携帯型パーソナルコンピュータ等の電子機器に関する刊行物1発明をポンプに適用しようとする動機付けもないといわざるを得ない。
以上によれば,刊行物1発明を本件訂正発明の相違点1に係る構成とすることが容易想到であるとした審決の前記判断は誤りである。
イ 被告は,刊行物1発明も本件訂正発明も共に電源電圧の変換回路を開示しており,技術分野は同一であると主張し,また,刊行物1発明において用いられている「DC/DCコンバータ」は周知の技術であり,電気機器,電子機器全般に適用可能な汎用技術であるから,その適用範囲内において適用対象が異なっても,技術分野が異なることになるとはいえないとも主張する。
しかし,前記のとおり,本件訂正発明はポンプの技術分野に属する発明であるのに対し,刊行物1発明は,電子機器の技術分野に属する発明であって,両者の属する技術分野は,明らかに異なる。そして,刊行物1発明が本件訂正発明と同様に電源電圧の変換回路を開示しているとしても,また,刊行物1発明において用いられている「DC/DCコンバータ」が周知の技術であり,電気機器,電子機器全般に適用可能な汎用技術であるとしても,刊行物1発明をポンプに適用しようとする動機付けがないことは前記のとおりである。
したがって,被告の上記主張を採用することはできない。