先使用権の事業継続の必要性

平成26年改正本P.58で先使用権の部分で「事業継続」という矢印が入っています。
これに対して、「事業の継続が必要なのか?」というご質問を頂きましたが、商標法と異なり、条文上に要件はありません。
したがって、事業継続が必須ですか?と言われると、そうでは無いと思います。
この図が意図しているところは解りませんが、一つは先使用権が問題となる場合は事業を継続していることが殆どです。
したがって、そのような状態になることから「事業継続」と書いているという理由か、「事業継続可能」という意味で使われているのでは無いか?と思います。
知財制度の説明会で使われているスライドでは、事業継続可能という意味で使われています)。

なお、以下は発展的な内容ですので、通常は気にしないで下さい。



特許庁が、「事業継続は不要」と判断している資料もあります。
例えば、こちらの資料では、以下のように回答してあります。

設問20. 先使用権の消滅又は放棄(事業の廃止、長期の中断との関係)
Q:一旦認められた先使用権が消滅又は放棄されたと判断されることはあるのでしょうか。例えば、事業の廃止、あるいは長期の中断があった場合にはどうでしょうか。
A:先使用権を一旦取得したとしても、当事者が自らこれを放棄したと認められるときは、先使用権は消滅したとみなされる可能性がある。この点について、実施事業の廃止あるいは長期の中断があった場合は放棄に相当し、先使用権が消滅するという学説もあるが、一旦認められた先使用権が、放棄により消滅したことを認定した裁判例はない。

ただし、明らかに事業を中断した場合は、先使用権が無くなる場合もあるとの説明もあります。
特許庁の「先使用権制度の円滑な活用に向けて」という冊子には以下のような記載があります。
長いので一部省略しています。

1.問1に記載したとおり、先使用権の成立には、特許出願の際に、先使用発明の実施である事業の準備又は事業を行っていることが必要です。そして特許権の行使を受けた場合の抗弁として有効な先使用権について、その存否を問題としているわけですから、通常は、特許権の行使を受ける対象となっている時期に、先使用権者が先使用発明の実施である事業を行っているものと考えられます。
つまり、特許出願の際には、発明の実施事業もしくはその準備を行っており、特許権の行使を受ける対象となっている時期には、その事業を行っている前提において、発明の実施事業やその準備を中断等することにより、いったんは成立した先使用権が放棄され、あるいは消滅したと認められるような場合があるのかという問題となります。

2.この点について、実施の事業の廃止、長期の中断は放棄に当たるとする学説もありますが、いったんは先使用権の成立していたことを認定した上で、この先使用権の放棄や消滅を明確に認定した裁判例は現在のところありません。
ただし、これに関連した裁判例として、東京高裁平成13年3月22日判決(No.67−高)があり、<略>、特許出願の際の「事業の準備」は認められたとしても、その後にその事業を断念した場合には、さらにその後に、「事業の準備」を再開して、その事業を開始したとしても先使用権は認められないといえます。ただし、この裁判例は、上記判示部分に続けて、<略>先使用権を認めている事例です。

3.上記判示にある「事業を断念」するという点について、通常は、その後、実際には事業を行っているからこそ、特許権の権利行使を受けることで先使用権の成否が問題となるわけです。すなわち、この「事業の断念」を認めるということは、いったんは、実施事業やその準備により先使用権の成立を認めながら、先使用権に基づく抗弁を認めずに特許権侵害を認定するということになります。<略>

4.また、地球儀型ラジオ事件最高裁判決(最高裁昭和44年10月17日第2小法廷判決(No.1最))においても、下請業者との製造販売契約が解除された結果、仮に実施事業が一時中止されたことがあったとしても、それをもって直ちに事業が廃止され、先使用権も消滅するに至ったものということはできないことが判示されています。

ただ、こちらも読むと結果的には「よほどのことが無ければ、先使用権には事業継続は不要」と読めると思います。

判例集も調べましたが、この辺の裁判所の判断が出ていないため、明確ではないというのが本当のところです。
(であれば、受験生は条文通りの回答でよろしいかと思います)。