東芝REGZA事件

こちらも最近の判例で、侵害訴訟の控訴審に関するものです。
なお、判例をざっと読んだだけで、出願明細書、出願経過を参酌している訳ではありません。ご了承下さい。
(自分のメモ用です)

裁判概要

本件は、米国の企業が特許権(第4450511:発明の名称/デジタル格納部を備えた電子番組ガイド)に基づいて東芝映像ソリューション株式会社に対して権利行使したものです。

特許第4450511号の請求項1は以下の通りです。
(特に読む必要はありません)

【請求項1】
A:ユーザテレビ機器(22)上で動作する双方向テレビ番組ガイドシステムであって、
B:該システムは、 複数の番組を格納するためのユーザ指示を受信したことに応答して、デジタル格納デバイス(31)に格納されるべき該複数の番組をスケジューリングする手段と、
C:双方向テレビ番組ガイドを用いて、該ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段と、
D:該複数の番組をデジタル的に格納したことに応答して、該双方向テレビ番組ガイドを用いて、該デジタル格納デバイス(31)に複数の番組データをデジタル的に格納する手段であって、該複数の番組データのそれぞれは、該複数の番組のうちの1つに関連付けられている、手段と、
E:該双方向テレビ番組ガイドを用いて、該デジタル格納デバイス(31)に格納された該複数の番組のリストをディスプレイに表示する手段と、
F:該デジタル格納デバイス(31)に格納された該複数の番組のリストから、該デジタル格納デバイス(31)に格納された番組のユーザ選択を受信する手段と、
G:該デジタル格納デバイス(31)に格納された番組のユーザ選択を受信したことに応答して、該ディスプレイに表示された該リストにおける該複数の番組のうちの1つに関連付けられた番組データを表示する手段であって、該複数の番組のうちの1つに関連付けられた番組データは、該デジタル格納デバイス(31)から取得される、手段と、
H:該双方向テレビ番組ガイドを用いて、該ユーザテレビ機器(22)に録画スケジュール画面を表示する手段であって、該録画スケジュール画面は、該デジタル格納手段によって格納される現在スケジューリングされている該複数の番組の表示を含む、手段と、
I:現在スケジューリングされている該複数の番組のうちの1つの番組を選択する機会をユーザに提供する手段と、
J:該双方向テレビ番組ガイドを用いて、現在スケジューリングされている該複数の番組のうちの該選択された番組に対して、選択された番組リスト項目情報画面を該ユーザテレビ機器(22)に表示する手段であって、該選択された番組リスト項目情報画面は、該選択された番組に関連付けられた番組データの1つ以上のフィールドと、1つ以上のユーザフィールドとを含む、手段と、
K:該1つ以上のユーザフィールドにユーザ情報を入力する機会をユーザに提供する手段と
L:を備えた、システム。

なお、侵害物品は東芝製REGZAです。
イ号:Z8/タイムシフトマシン・録画|テレビ|REGZA:東芝
ロ号:J10X/TOP|テレビ|REGZA:東芝

争点

さて、この裁判で争点となったのは、控訴審では構成要件Cだけです。

最近のテレビは外付けHDDを接続すると、録画できる機能が付いています。
逆を言えば、テレビ自体にはHDDは内蔵されていません。

このHDDが、本願発明の「デジタル格納デバイス」と認定されます。
そして、デジタル格納デバイスは、REGZAの場合内蔵されておらず、外付けタイプになります。
従って、構成要件Cを満たさないため非侵害という判断です。

控訴人は,構成要件Cは,「双方向テレビ番組ガイド」を用いて,「デジタル格納デバイス」に複数の番組をデジタル的に格納する「手段」を備えていれば,充足することになるものであって,「デジタル格納デバイス」自体を必須の構成要素として規定するものではないと主張するが,本件発明は,デジタル格納部を含むユーザテレビ機器を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに係る発明であるから,被告物件(液晶テレビ製品)が本件発明の技術的範囲に属するというためには,被告物件が「番組をデジタル的に格納可能な部分」を含むことが必要であることは,前記1のとおり補正して引用する原判決が認定説示するとおりである。
すなわち,本件発明に係る特許請求の範囲は,「ユーザテレビ機器(22)上で動作する双方向テレビ番組ガイドシステムであって」(構成要件A),・・・「双方向テレビ番組ガイドを用いて,該ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段と,」(構成要件C)・・・「を備えた,システム」(構成要件L)と記載されているから,本件発明の双方向テレビ番組ガイドシステムは,ユーザテレビ機器に含まれるデジタル格納デバイスに番組をデジタル的に格納(録画)する手段という構成を含むものである。

そして,本件明細書には,「本発明は・・・番組および番組に関連する情報用のデジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに関する。」(【0001】)として,双方向テレビ番組ガイドシステムが「デジタル格納部を備えた」ものである旨が記載されている。また,従来技術として,「番組ガイド内で選択された番組を独立型の格納デバイス(典型的にはビデオカセットレコーダ)に格納することを可能にする双方向番組ガイド」(【0004】)が指摘され,その操作に関し,「ビデオカセットレコーダの操作には通常は,ビデオカセットレコーダ内の赤外線受信器に結合される赤外線送信器を含む操作経路が用いられる。」(【0004】)と記載されており,「独立型の格納デバイス」を用いる従来技術について記載されている。その上で,従来技術の課題として「独立型のアナログ格納デバイスを用いると,デジタル格納デバイスが番組ガイドと関連付けられる場合に実施され得るようなより高度な機能が不可能になる。」(【0004】)と記載され,これを受けて,本発明の目的を「デジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイドを提供すること」(【0005】)と記載している。以上に加え,「番組ガイドと関連付けられたデジタル格納デバイスの使用は,独立型のアナログ格納デバイスを用いて行われ得る機能よりも,より高度な機能をユーザに提供する。」(【0009】)という記載を併せ考慮すると,本件発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能であった高度な機能をユーザに提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイスを備えることを目的としたものと認められる。
以上によると,被告物件が構成要件Cを充足するというためには,「番組をデジタル的に格納可能な部分」を含むこと(内蔵すること)が必要というべきである

内容はかなり厳しいと思います。

本件、優先日が平成10年9月17日(日本出願日平成11年9月16日)。
この頃はVHS全盛期です。
DVDレコーダーやHDDレコーダーが登場し出すのは2000年代に入ってから。
特許は20年先まで見て出願するのですが、ないものは中々カバーできないところです。

元々の課題に対する解決手段は、確かに装置単体で記憶できることです。
しかし、従来の課題はビデオテープというメディアであったからです。

これに対して、単に「デジタル格納部がテレビに内蔵されていないから非侵害」というのは、かなり厳しいと感じます。
極論をいうと、装置クレームにおいて、構成要件に「記憶部」があれば、外部記憶装置を利用するだけで侵害回避が容易にできてしまう可能性があるからです。
(とてもこれだけで、非侵害ですという鑑定意見書はこちらとしては書けません)

また、間接侵害についても主張しましたが、認められませんでした。

控訴人は,間接侵害を主張するところ,被告物件である液晶テレビ製品は,単に放送を受信するだけで,いずれもそれ自体に録画できるメモリー部分(デジタル格納部)を備えておらず,録画先としては,外付けのUSBハードディスクやレグザリンク対応の東芝レコーダーとされており,これらを被告物件に接続することによって初めて,被告物件で受信した番組を上記ハードディスク等に録画することが可能であるから,デジタル格納部を被告物件に内蔵させる余地はない。そうすると,被告物件は,デジタル格納デバイスを含むユーザテレビ機器を備えた双方向テレビガイドシステムの「生産に用いる物」ということができない。
また,前記(1)のとおり,本件発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能であった高度な機能をユーザに提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイスを備えることを目的としたものであり,従来技術に見られない特徴的技術手段は,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイスを備えること,すなわち,これを内蔵することにあるというべきである。そうすると,被告物件は,デジタル格納デバイスを内蔵するものではないから,本件発明による「課題の解決に不可欠なもの」であるとはいえない。
したがって,被控訴人による被告物件の製造,輸入,販売及び販売の申出は特許法101条2号所定の間接侵害に当たらない。

指針

自分自身、クレームの構成要件に「記憶部」や「記憶手段」を含めるのはあまり好きではありません。
理由は色々ありますが、一つは侵害特定時に「記憶されている」ことまで言う必要があるからです。
なので、入れないで書けそうなときは入れていません。
(例えば、単にデータを取得する等)

また、最近では、外付けより更に外側として、クラウドにデータをおくことも多くなっています。
この辺の「記憶」の取扱いは、ますます難しくなってきそうです。

ただ、米国等の外国出願を想定している出願の場合、「ハードウェアを構成要件として明確にして欲しい」という要望もあったりします。
この場合は、記憶部をあえて記載することもあります。
また、国内出願だからといって、やはり処理の都合上、記憶部(記憶手段)がクレームに含まれる場合はあります。

結局、明細書(実施形態)において、記憶装置、記憶部がどのような状態であっても、権利範囲として捉えられるように記載しておくことが重要です。


前回紹介したマイミク事件もそうですが、少し発明の本質と違った部分が争点になっている心証です。

判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/430/087430_hanrei.pdf
(原審:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/498/086498_hanrei.pdf