少しかわいそうな判例

ちょっとだけかわいそう(?)な判例です。

「特許出願手続において代理人の追加選任がされた場合におけるそれ以前から選任されていた代理人に対する拒絶査定の謄本の送達の効力」が争点として争われました。特許法12条です。


ある在外のQ社の特許出願Xに、代理人としてA弁理士がいました。
このA弁理士、定期的に連絡していたのが連絡がなくなってしまったそうです。
そんな状態ですので、他の案件で特許出願の拒絶査定が勝手に確定したしまったらしく。
当然、解任されてしまいます。

さて、出願Xに、新しいB弁理士、C弁理士が選任されました。
平成26年11月21日、代理人選任届が提出されます。
そうすると、通常これ以降の書類については、B弁理士宛に送られることになります。

さて、平成27年1月22日に出願Xに拒絶査定が出るのですが、平成27年2月17日に特許庁はA弁理士に拒絶査定謄本を送達してしまいます。
そんな事情もしらないので、一応平成27年2月25日に、A弁理士の代理人解任届を提出します。

多分、その後、B弁理士が調べたか解りませんが、「拒絶査定出てる」ってことで審判請求したのが平成29年3月10日。
特許庁は不適法として審決却下したという事案です。

裁判所の判断は以下の通りです。

特許法12条は,前記のとおり,代理人の個別代理を定めているから,特許庁が上記のような取扱いをしており,それが対庁協議事項集に記載されているからといって,新たな代理人以外の代理人に対する送達の効力を否定することはできないものと解される。特許庁の上記取扱いに法規範性を認めることはできず,原告の上記主張を採用することはできない。
そして,上記の結論は,A弁理士に任務懈怠があったとしても,左右されるものではない。

対庁協議事項集は、弁理士が持っているもので、弁理士会と特許庁との話合いの結果です。
そこでも、「あとから選任された弁理士に書類は送付する」旨が記載されているためです。
それであっても、条文上は問題ないため、不服は認められなかったというものです。

確かに、今回は拒絶査定が出てから2年経っているというのも問題なのかもしれません。
といっても、拒絶査定はこちらからいつ出るかも解りませんし、事務所側も特許庁が前の代理人に書類を送るとは思っていないと思います。

裁判所としては、

原告の代理人であった米国の法律事務所のパートナーは,平成26年10月頃以降,それより前には定期的に連絡してきていたA弁理士から,連絡がなくなり,同年11月,A弁理士が出願を行った別件の日本特許出願につき,拒絶査定があり,A弁理士がこれに対して応答しなかったため,当該特許出願が失効していたことが判明したことを契機に,A弁理士を解任し,別の代理人に業務を引き継がせることにしたというのであるから(甲3),原告は,遅くとも代理人解任届が提出された平成27年2月25日には,上記特許出願以外の特許出願(本願を含む。)についても,A弁理士に対し,拒絶査定が送達され,同弁理士が応答していない可能性があることを認識し得たといえる。

としていますが、そもそも書類をB弁理士に送ってくれればよかったのに・・・って思ってしまう事案です。


と、試験とは関係ありませんが、少し珍しい判例でしたので。
H30.5.30東京地裁(平成29(行ケ)10197)