著作権法改正−DVDリッピング、DRM解除等−

改正著作権法ですが、結局参議院も「無事」通過したようです。おめでとうございます。ダウンロードが違法化になってから2年にも関わらず刑事罰適用の導入。これでCDコンテンツ等の売り上げが上がらなかったら、今度は何処に原因を持って行くのだろう?と考えてしまいます。

さて、ダウンロード違法化の件で大騒ぎになっていますが、個人的にはDVDリッピング違法化の方が重大な改正だと思っています。今回はちょっと熱く書きます!

改正について

まず、文部科学省(文化庁)は、今回の改正について、

現行法上、著作権等の技術的保護手段の対象となっている保護技術(VHSなどに用いられている「信号付加方式」の技術。)に加え、新たに、暗号型技術(DVDなどに用いられている技術)についても技術的保護手段として位置づけ、その回避を規制するための規定を整備。

と記載しています。

プロテクトの種類

さて、ここで一般的なプロテクトには2種類あります。一つは「複製を禁止する」ものであり、「コピーコントロール」をメインにするものです。VHSのビデオを買ってきたけど、それの複製を防ぐ技術です。
もう一つは「正規のユーザが見られるようにする」ものであり、例えばネット動画や音楽をダウンロードしたときに、ダウンロードが許可されたコンピュータ、再生装置等でしか動画を見たり音楽が聴けたりできません。そういうのをコントロールするのが「アクセスコントロール」です。

で、DVDについてはCSSと呼ばれる暗号方式が使われています。これにより、正規の再生装置でしか再生出来ないですし、複製も出来ない訳です。ということで、どちらとも言えるのですが、複製を防止する目的では無いので文化庁(審議会)の見解はCSSは「アクセスコントロール」と解釈されています。

ここまでまとめると、まず

  • コピーコントロール
  • アクセスコントロール

の2種類があります。

改正前

実は改正前からそもそもどちらについても既に違法です。アクセスコントロールは、不正競争防止法(不競法)で禁止されているからです。改正前はアクセスコントロールの回避については違法ではありませんでした。

仮に、ダウンロードした動画の技術的制限手段(不正競争防止法ではそういう名称です)を外し、それをコピーすればその時点で複製権の侵害になりますし、ネットで流せば公衆送信権の侵害となります。著作権法の目的としては、おおざっぱに言えば「無断コピーの禁止」です。そもそも不競法で既に違法とされていることを2重で適用する必要もないというのが従前の見解でした。

今回の改正

しかし、今回以下の通り著作権法が改正されます。

著作権法 2条(定義)
二十 技術的保護手段 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法(次号において「電磁的方法」という。)により、第17条第1項に規定する著作者人格権若しくは著作権又は第89条第1項に規定する実演家人格権若しくは同条第6項に規定する著作隣接権(以下この号、第30条第1項第二号及び第120条の2第一号において「著作権等」という。)を侵害する行為の防止又は抑止(著作権等を侵害する行為の結果に著しい障害を生じさせることによる当該行為の抑止をいう。第三十条第一項第二号において同じ。)をする手段(著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送(次号において「著作物等」という。)の利用(著作者又は実演家の同意を得ないで行つたとしたならば著作者人格権又は実演家人格権の侵害となるべき行為を含む。)に際し、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは映像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。

著作権法 30条(私的使用のための複製)
著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
一 (略)
二 技術的保護手段の回避(第2条第1項第二十号に規定する信号の除去若しくは改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うこと又は同号に規定する特定の変換を必要とするよう変換された著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像の復元(著作権等を有する者の意思に基づいて行われるものを除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第120条の2第一号及び第二号において同じ。)により可能となる複製、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合

技術的保護手段

今回の改正のポイントは「技術的保護手段」の内容を広げているところです。特に定義規定の最後「若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは映像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるもの」の部分です。すなわち、「本来記録されてる方式から、何らかの形式に変換(復元)して再生等するものは全部含まれるよ」という規定に変わったわけです。

(暗号化された影像)−(復号処理)−(視聴可能な影像)

この復号処理をすっとばすような複製をしたら、私的使用のための複製であってもアウトということです。30条1項2号をもう少し簡単に記載する(かっこ書きを無くす)と、

技術的保護手段の回避により可能となる複製、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合

となります。ここで、技術的保護手段の回避とは、

  • 第2条第1項第二十号に規定する信号の除去若しくは改変を行うこと
  • 同号に規定する特定の変換を必要とするよう変換された著作物等に係る音若しくは影像の復元を行うこと

により

  • 当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とする行為
  • 当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにする行為

です。

30条への適用について

ここで疑問が生じます。果たして「私的使用のための複製」までを禁止する目的、保護法益って一体何だろう?と。

例えば、CDを購入してiPhoneに入れることがあります。現在CDについては悪評高かったからか、コピーコントロールはやめてしまっているので、CDからMP3に変化してiPhoneに入れることは問題ありません。
ところが、DVDについては、映画等をMP4に変換してiPhoneやiPadに入れている人もいると思います。しかし、これも総て違法となり、出来なくなります。また、最近はHDDの価格も下がっているので、DVDを一度リッピングし、コンピュータで再生する人もいると思います。それらが全部違法となってしまいます。

ではこの行為をしたことを誰が突き止めるのでしょうか?警察官が自宅のコンピュータを全部調べるのでしょうか?物理的に無理だと思います。であれば、誰かに渡した段階、ネットで配信した段階で従来通り取り締まるのであれば、従前の複製権侵害、公衆送信権侵害で問題無いのでは無いでしょうか。

【追記】江口先生からのご指摘分

上記の記載では「DVDリッピング」=「逮捕」、すなわち刑事罰の適用があるとも読めてしまいますが、今回の改正では「リッピング行為」に対して刑事罰の適用はありません。しかし、DVDリッピングソフトの提供(解除ツールの提供)は、著作権法(改正法120条の2第1項第一号)及び不競法で刑事罰の対象となります。
ダウンロード違法化→刑事罰の適用という改正が今回早かったので、この点は注意が必要です。

まとめ

ながながと書きましたが、「DVDの複製」、「ネット動画のDRM解除」といったことが現在の技術では完璧に出来ません。新しい技術を開発しても、それを外すツールが誰かに開発されてしまいます。
これらを技術的に完全に防ぐことが出来ないため、立法に頼るという手法な気がします。それは、個人的には乱暴な気がします。

ただ、仮に配信動画、映画DVDの値段が下がれば逆に「違法コピー」等しなくても普通に購入するのでは無いでしょうか?特に日本人は所有欲が強いそうなので、安ければ「DVD」や「CD」で手元に置いておきたいという気持ちが強いと思います。

著作権法1条の目的にあった改正ではないのではない?と個人的には感じてしまいます。

著作権法 第1条(目的)
この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

海外での行為

なお、日本の著作権法を厳しくすることにより、日本のコンテンツを保護するようにも感じますが、これも疑問です。著作権法の適用については、属地主義が取られており、日本での行為は処罰対象ですが、海外ではその国の法律が適用されます。したがって、海外での違法行為を日本の著作権法で止めることができません。

では、日本人も海外でやれば良いじゃないか!となりますが、今度は刑法施行法27条があります。

刑法施行法 第27条
 左に記載したる罪は刑法第3条の例に従う
一  著作権法に掲けたる罪

刑法 第3条
 この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。

したがって、日本人の場合は、例え海外であっても日本国の著作権法が適用されます。ということは、著作権を厳していくと、日本人にだけ厳しい規定になりかねません。これでは逆にコンテンツを保護できない気がしてしまいます。