あずきバーの識別性?

あずきバーについて、商標登録が認められたとニュースが報道各社から先日なされました。例えば、産経ニュースのサイトでは以下の様に報道されています(概ね、他社も同様の記事です。)

棒アイス「あずきバー」の商標登録を認めなかったのは不当だとして、井村屋グループ(津市)が特許庁の審決取り消しを求めた訴訟の判決が24日、知財高裁であった。土肥章大裁判長は「『あずきバー』は井村屋の商品として広く認識されている」として、請求を認める判決を言い渡した。

商標法は「原材料や形状などだけで表示された商標」を登録できないと定めており、土肥裁判長は「あずき」と「バー」の組み合わせについて「特段の独創性は認められない」と指摘。一方、あずきバーの年間販売本数が2億5800万本(平成22年度)を記録している点などに言及し、「高い知名度を獲得している」として、同法の別の規定を適用し登録することが可能と判断した。

井村屋グループは「長年大事に育ててきた商品の実績が認められ、うれしい」とコメントした。

引用元:http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130124/trl13012418460002-n1.htm

そもそも、「あずきバー」は4件出願されており、他の3件は登録となっています。今回問題となっていた商願2010-52888は、標準文字の商標登録出願でしたので、拒絶となっているようです。

ニュースだけ読むと「あずき」+「バー」の組み合わせが3条1項3号に該当し、著名性が認められて3条2項により登録になったような内容です。判決文を見ていないので何とも言えません。しかし、特許庁の審決速報(不服2011-16950)を見ると論点は他のところにあるようです。

著名性

審決を読んでみると、まず、「あずきバー」については、3条1項3号に該当すると指摘しています。そして、3条2項を適用するための著名性について、特許庁は以下の通り認めています。

「あずきバー商品」の販売期間,販売数量,広告宣伝等としては相当程度の実績があるものと認められる。

したがって、「あずきバー」自体の著名性は認めている感じです。

1つ目:3条2項の商標

そもそも、3条2項について。審決の中で特許庁は以下の通り示しています。

ところで,出願に係る商標が,商標法第3条第2項に該当し,登録が認められるかどうかは,使用に係る商標及び商品,商標の使用開始時期及び使用期間,使用地域,当該商品の販売数量等並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して,出願に係る商標が使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるかどうかによって決すべきものであり,その場合に,出願に係る商標及びその指定商品は,原則として使用に係る商標及び商品と同一であることを要するものというべきである。

3条2項の適用を受ける商標(使用により識別力を獲得した商標)と、出願する商標は同一であることを要件としてあげています。

(イ)本願商標と実際に使用している商標との同一性 
 甲第1号証等に示された「あずきバー商品」に使用する商標は,まる文字体の一種といえる書体により「あずき」の文字を縦書きし,その「き」の文字の左下に「あ」「ず」「き」の各文字の約四分の一程度の大きさでまる文字体の一種といえる書体による「バー」の文字を縦書きした構成からなるもの等,一般に用いられる活字体の文字とは異なるものである。 
 これに対し,本願商標は,「あずきバー」の文字を標準文字で表してなるものであり,本願商標と実際に使用している商標とは,文字の構成態様が明らかに異なるものであるから,本願商標と同一の商標を使用しているものとは認めることができない。 

すなわち、特許庁は、3条2項の識別力を獲得した商標と、出願している商標(文字商標)が異なっている点を指摘しています。したがって、3条2項の適用は受けられないという内容です。

2つ目:4条1項16号について

更に、「あずきバー」の出願の指定商品は「あずきを加味してなる菓子」です。この点についても、特許庁は問題があると指摘しています。

本願の指定商品は,「あずきを加味してなる菓子」であるのに対し,上記(イ)の各号証において示された商品は,「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」のみであり,「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」以外の「菓子」に使用していることを証明する書類は提出されていない。 
したがって,本願の指定商品は,請求人の使用する商品以外のものを含むものであり,使用している商品と同一の商品であるとは認めることができない。

したがって、指定商品が異なります。更に、このままでは例えば他のあずきを加味してなる菓子に使用した場合、4条1項16号に該当するという指摘と思われます。

審決の結論

以上のとおり,「あずきバー商品」の販売期間,販売数量,広告宣伝等としては相当程度の実績があるものと認められる。 
しかしながら,使用に係る商標は,本願商標と同一の商標と認めることができず,また,実際に使用している商品は,「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」のみであるから,本願の指定商品と同一の商品であると認めることもできないものである。 
してみれば,請求人の提出した証拠を総合して勘案しても,本願商標が,その指定商品について使用された結果,需要者が請求人の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものとは認められないものである。 

このように、識別力を獲得した商標と、出願している商標・指定商品が同一ではないことにより3条2項の適用はないとの結論になっています。裁判所が審決を取り消したということは、この点をどのように判断しているがポイントとなります。

3条2項について

3条2項の同一性については、「Kawasaki」事件(平成24(行ケ)10002:平成24年09月13日)の記憶が新しいところです。この判例の中で、裁判所は3条2項の適用について

当該商標が長年使用された商品又は役務と当該商標の指定商品又は指定役務が異なる場合に,当該商標が指定商品又は指定役務について使用されてもなお出所表示機能を有すると認められるときは,同項該当性は否定されないと解すべきである。

と指摘しています。すなわち、特許庁が「識別力を獲得した商標」と「出願商標」との同一性に拘っている(審査基準通りです)に対して、裁判所は「出所表示機能」が重要と考えているようです。したがって、「同一性」の要件を厳格に適用していません。


今回の判例も気になるところですが、このまま判例が積み重なると、3条2項の審査基準について改正が入るかもしれません。

試験への影響

仮に、

識別力を獲得した商標と異なる商標を出願した場合であっても、3条2項の適用を受けることが出来る場合がある。

と出題があったとしたら、これが「○」となるのか、「×」となるのか気になるところです(おそらく、このような出題はないと考えています)