36条違反は悪者?

特許において、「36条違反」というのは「よくない」と思われていることが多いように感じます。「36条違反」は記載不備なのですが、必ずしも悪いという訳ではないと自分は思っています。

そもそも、「36条違反」は、3つのパターンがあると思っています。

誤記による36条違反

うっかり記載を間違えた、誤字がある、「前記」と書いた構成要件が前に出てこない等です。確かにこのような36条違反は避けるべきです。人間ですから、完璧ではありません。このような拒絶理由をいただくと、その都度反省しております。

想定していない36条違反

難しいところです。出願時には「問題ない」と思っていた記載であっても、審査官に伝わらなかった場合です。「○○という記載では不明確だよ」という指摘。「何故伝わらないのか?」がわからない場合もありますし、審査官に言われれば「確かにそう」って場合もあります。

この辺はクレーム作成者のスキルによる部分もあったりしますが、一概に「良い」「悪い」が判断できないと思います。

想定した36条違反

出願時に「36条違反を指摘される可能性がある」とあらかじめ認識し、実際36条違反の拒絶理由を指摘された場合です。これは自分は「良い」36条違反であると思っています。

例えば、出願時に処理をどこまで記載するかかなり微妙な部分があります。このとき、意図的に「36条違反が来る可能性がある」と考えて作成する場合があります。

具体的には、

前記検出手段により検出された値に基づいて識別情報を抽出する抽出手段

と記載した場合。「検出された値に基づいて、どのように識別情報を抽出するのか具体的ではない」と36条違反が指摘される場合があります。しかし、指摘されない場合もあるのです。検出手段を具体的に記載することは当然権利範囲を限定することになりますので、あまり細かい内容まで記載したくないのが本音です。

当然、この抽出手段により従来技術との差異が明確になるか否か、発明の本質的部分か否かによって判断が分かれる部分だと思います。したがって、36条違反を想定しているのであれば、クライアント(発明者)に対して「36条違反になる可能性がありますけど、どうしますか?もう少し記載しますか?」といったことを出願時に提示すべきだと考えています。

そのような事情を説明して、あえて「このままでいきましょう」ということになれば、想定の範囲内で36条違反の拒絶理由をもらえば良いだけです。当然ですが、出願時に36条違反を想定している訳ですから、明細書でしっかり担保してあるのが前提です。明細書でフォローをして、さらに請求項の記載のリスクをクライアントに説明する必要があると思っています。

出願時には何も言わず、拒絶理由が来てから「これは36条違反になって仕方ないやつですから。わかってましたよ。」というのは、ちょっと負け惜しみに聞こえますよね。


なお、36条違反は、審査官に補正により拒絶理由が解消しているか否か、あらかじめ判断を仰ぐことができる場合が多いです。つい、審査官も「これなら問題なさそうですねー」と、併せて進歩性もあるような示唆をしてもらえる場合もあります(本来、それ狙いではないのですが)

そう考えると、36条違反の拒絶理由が一概に「悪い」ものではないと考えています。