分割出願と29条の2との関係について

よく質問を受ける箇所ですので、ちょっと説明をしておきたいと思います。
分割出願における29条の2の適用が解りにくいようで、良く質問を受けます。まず、こんな事例を考えて見ます。

甲の発明イロが記載された出願A(特許請求の範囲はイ)から、発明ロを分割出願Bをする。このとき、乙が出願Aと分割出願Bの間に発明ロについて出願Cをした。

当然、それぞれの出願について出願公開されます。したがって、最終的には以下の状態になるかと思います。

このとき、それぞれの出願について見ていきましょう。

まず、分割出願Bの出願(日)は遡及します。したがって、出願Aの時点に出願されていたとみなされます。これが大原則です。この手の学習は原則からしっかり押えることが大切です。
つぎに、29条の2は、「出願日」〜「出願公開日」までの同一の出願を拒絶出来ます。ちなみに、「出願公開」されてしまえば、それ以降の出願は29条1項3号で拒絶出来ます。

この2つの原則を押えたあと、それぞれの出願について見ていきましょう。

出願A

出願Aは(1)の矢印の範囲にある出願については29条の2に基づいて拒絶可能です。したがって、乙の出願Cは出願Aを根拠に29条の2で拒絶されます。
ここで気をつけて欲しいのは、拒絶されるのは数年後です(審査が始まってからです)。したがって、出願Cが出願公開前に(何もしないで)消えてしまうということは有りません。何もしなければ図の関係になります。

出願B

出願Bですが、原則をもう一度思い出して下さい。

出願Bは遡及する。出願Aの時点に出願されていたとみなされる。

これが原則です。そうすると、分割出願Bは、出願Aの時点が出願日になります。したがって、原則通りでは、図の(2)+(3)の範囲で29条の2に基づいて他の出願を拒絶する地位を持っています。
しかし、分割出願というのは、必ずしも出願Aと同一とは限りません。もしかしたら違った事も入る可能性があるのです。その点も含めて、遡及してしまうと、分割出願Bで入った事項までが遡及して、(2)の範囲の出願を拒絶出来てしまいます。
したがって、例外的にこの場合「分割出願Bは遡及させない」。すなわち、(2)の範囲は29条の2の地位が無くなるのです。これにより、分割出願Bが29条の2により拒絶できる範囲は(3)の範囲だけとなります。

条文を当てはめると、

44条
2 前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。

この部分によれば、原則通り、出願Bは(2)+(3)の範囲で29条の2の地位が得られるはずです。しかし、

ただし、新たな特許出願が第29条の2に規定する他の特許出願又は実用新案法第3条の2に規定する特許出願に該当する場合におけるこれらの規定の適用並びに第30条第3項、第41条第4項及び第43条第1項(前条第3項において準用する場合を含む。)の規定の適用については、この限りでない。

但書により、他の特許出願に該当する場合、すなわち29条の2の地位として、(2)の部分は遡及させない規定となっております。

(2)のところにぽっかり穴が出来たようですが、出願Aが残っている以上、(1)の範囲で拒絶できるので問題無い訳です。

出願C

最後に出願Cが拒絶出来る範囲も原則通り「出願日」〜「出願公開」までです。したがって、(4)の範囲となります。
ここで、(4)の範囲に分割出願Bが含まれてしまいます。しかし、この場合、原則通り分割出願Bは遡及し、出願Aの時点に遡及しています。したがって、出願Bが出願Cに基づいて29条の2で拒絶されるということは有りません。

発展事項1

仮に、出願Aが公開前に取下げられてしまった場合。すなわち、出願Aが公開されないと、(1)の29条の2の地位は発生しません。
したがって、出願Cを拒絶できる矢印が無くなりますので、出願Cは29条の2で拒絶されないことになります(しかし、出願Bが遡及しますので、39条違反で拒絶となります)
この内容は過去問で出題されています(かなり難しい問題です)

発展事項2

仮に出願Cが出願Bの出願後、出願Aの公開前に出願された場合は、出願A、出願Bの両方の29条の2に該当します。滅多に考えられませんが、どちらで拒絶しても良いでしょう(実務的には、出願Aのみで来そうです)。もし、出願Cが出願Aの公開後であれば、出願Aに基づいて29条1項3号で拒絶となります(出願Bとの関係では29条の2の拒絶理由もあります。実務上は使いやすい29条が適用されると思います)。