商標1回目の問題について(4条1項16号の適用について)

商標法1回目の問題について、気になる点です。
ネタバレになるので、LECの夏ゼミ(Sゼミ)受講生で、まだ問題を解いていない人は見ないように!
また、試験にあまり関係無いところもあるので、趣味として読んで下さい。



さて、今回の問題ですが、商標「NATANE」を、指定商品「シャンプー」として出願するというものです。
そして、登録商標商標「菜種」(指定商品「シャンプー」)が先願としてあるという事例でした。
このままでは本願は4条1項16号に該当するため、指定商品を「菜種油を配合したシャンプー」と補正。
先願は「シャンプー」として登録されているため、4条1項16号に該当。したがって無効にすれば本願も登録出来るというものでした。

この記載で気になるのが、実務的に先願登録商標を必ず無効でつぶせるか?という点が少し気になりました。

エチオピアコーヒー」事件

勝手に事件名を付けましたが、実はこれと似たような判例があります。知財高裁平成22年3月29日(平成21年(行ケ)第10229号)の判例です。(なお、この判例は異なる商標で複数ありますが、結論はほぼ同じです)

この事案の元となる権利は、

  • 登録商標:イルガッチェフェ
  • 指定商品:第30類「コーヒー、コーヒー豆」

です。権利者はエチオピア連邦民主共和国
無効審判を請求したのは社団法人全日本コーヒー協会です。
イルガッチェフェは、エチオピア国イルガッチェフェという地名だそうです。これに対して、3条1項3号、4条1項16号違反について無効審判を請求し、認められたものです。

今回は4条1項16号の話について取り上げます。

無効審判(1回目)

特許庁は、「本件商標は,これをその指定商品中「エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆,エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」以外の「コーヒー豆,コーヒー」について使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから,商標法4条1項16号が規定する「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」に該当する,というものである。」としました。おそらく受験生が認識している通りに結論となります。

審決取消訴訟

これに対して、裁判所は以下の様に判断します。

(1) 前記3(1)ア認定のとおり,エチオピア国において産地によってコーヒーの風味が異なることからすると,産地に由来する本件商標をエチオピアのシダモ地方イルガッチェフェ地域産以外のコーヒー,コーヒー豆に使用した場合には,品質誤認を生ずるおそれがあるというべきである。そして,審決書記載のとおり,特許庁における平成20年10月28日の第1回口頭審理の結果によれば,指定商品中の「コーヒー」は「焙煎後のコーヒー豆及びそれを更に加工した粉状,顆粒状又は液状にした商品(コーヒー製品)」のことであり,「コーヒー豆」は「焙煎前のコーヒー豆」のことである。
したがって,本件商標は,これをその指定商品中「エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆,エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」以外の「コーヒー豆,コーヒー」について使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから,商標法4条1項16号が規定する「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」に該当するとの審決の判断に誤りがあるということはできない。また,このように解することが,前記3(2)エ(ア)bのTRIPs協定の規定にも適合するというべきである。
なお,前記3(2)イ認定のとおり,本件商標が,その指定商品である「コーヒー,コーヒー豆」について用いられた場合,取引者・需要者は,「エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域産」ではなく,単に「エチオピア産の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒー」を指すものと認識することがあり得るが,そうであるとしても,本件商標を「エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域産以外のコーヒー,コーヒー豆」に使用した場合には,やはり品質誤認を生じるというべきであって,上記判断が左右されることはない。

特許庁とほぼ同じ判断をしているかと思われます。
よしよし、4条1項16号で無効となる、何をもったいぶって引用しているのか?と皆さん憤慨しているかも知れません。
大丈夫です。判決文は続きます。ここから大どんでん返しが待っています。

(2) 原告の主張に対する補足的判断
原告は,本件商標は,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」という商標法3条2項(特別顕著性)の要件を満たしているとも主張するが,商標法3条2項は,商標法3条1項3号〜5号に該当するとしても商標登録を受けることができる要件であって,品質誤認について定めた商標法4条1項16号に適用されるものではない。

その通りです。3条2項と4条は関係ありません。

また,原告は,コーヒー豆,コーヒー及びこれに類似する商品を指定商品とする,日本国外の地名からなる登録商標で,指定商品中に記載されている産地が国家とされている登録例が存すること,及び地域団体商標において,県単位で産地の指定商品としているものがあることを主張するが,これらは,本件とは異なる商標についての登録例であり,上記判断を左右するものではない。
さらに,原告は,指定商品を狭くしすぎると,みなし侵害を規定する商標法37条による保護を受けられないことがありうるのであり,さらに,そもそも,本件は競業者不存在の事案であるとも主張するが,そのような点は,上記商標法4条1項16号該当性の判断を左右するものではないというべきである。

全く認めてくれません。権利者負けてしまうのか!?

(3) さらにいうならば,商標法46条1項ただし書は,商標登録の無効審判請求について,「商標登録に係る指定商品又は指定役務が2以上のものについては,指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。」と規定していることからすると,商標登録の無効審判請求は,指定商品又は指定役務ごとにすることができるところ,ここでいう「指定商品又は指定役務」は,出願人が願書で記載した「指定商品又は指定役務」に限られることなく,実質的に解すべきである。本件においては,既に述べたとおり,エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆,エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」とそれ以外の「コーヒー豆,コーヒー」では,商標法4条1項16号該当性において違いがあり,「指定商品」としても異なると解することができる。したがって,「エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆,エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」に係る部分には無効事由はないが,それ以外の部分には無効事由があるとの判断をすることができるというべきである。

なんと、指定商品を分けてきたのです。そして、結論としては、

5 小括
以上によれば,
(略)
(3)本件商標は,指定商品「エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆,エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」の限度では商標法4条1項16号(商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標)に該当しないが,上記「イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域」以外の地域については同号に該当する。
ということになる。
6 結論
よって,審決のうち指定商品「エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆,エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」に関する部分は違法であるから取り消すこととし,原告のその余の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

と結んでいます。最終的に、

主 文
特許庁が無効2007−890026号事件について平成21年3月30日にした指定商品第30類「コーヒー,コーヒー豆」に関する審決のうち,指定商品「エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆,エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」に関する部分を取り消す。

指定商品のうち、誤認混同を生じる部分は無効で良いけど、それ以外の部分、すなわち誤認混同を生じない部分については無効審決を取り消すとの結論が出てしまいました。
この後、上告するも最高裁に棄却され判決確定。差し戻しの無効審判は請求不成立で審決も確定しています(すなわち、誤認混同の生じない部分については権利が残っています)。

まとめ

このように、この事案では誤認混同が生じる部分については無効となり、誤認混同が生じていない部分についてはそのまま認められているのです。
したがって、本問の場合も上記と同じことを当てはめると、「シャンプー」のうち、「菜種油を配合したシャンプー」の部分は無効理由に該当せず、それ以外の部分については無効と結論がでる場合があると解されます。

この点について答案で書く必要があるのか?というと書かなくて良いかと思います。
何故なら、上記レジュメが一般的にならない以上、受験生的に少数意見であるためです。
条文の試験であるから条文に忠実に答えれば良いのです(論文は上手く書く必要はありません)。

ただ、実際の場面では上記のような判断もされているということを趣味の範囲で知っておくと、合格後何かの役に立つかも知れません・・・というお話でした。