論文試験の答案と明細書1

論文試験の答案ですが、実は合格後の明細書作成スキルにも繋がるものだと思っています。
したがって、論文試験の答案をキッチリ書くと言うことは、非常に大切なことです。
弁理士は、普段から「明細書の文言」に気を遣っています。それは、中間対応や権利行使時に困るからです。
「こんなことは書かなくても良いだろう」と、受験生は思いがちです。
しかし、実務をやっていくと困ることはあるのです。
弁理士試験も採点するのは最近は弁理士です(試験委員は殆ど弁理士です)。
弁理士として違和感を感じる文章は、本試験では点数が付きません。
正確に書きますと「失点につながるスキを与える答案」である点を意識して下さい。

例えば、先願がA、後願がBの場合、Aが出願公開されると29条の2の適用があります。
この場合、Aが出願公開されたことや、同一の発明である要件は意外に受験生は落としません。
出願人(発明者)が同一か否かについても、記載を落とさない人は多いのです。
しかし、特許法29条の2において「他の特許出願が、特許出願の前の出願」であることも要件としてあります。
問題文からAが先願であることが明らかであるため、この要件は「明らかだろう」ということで記載をしません。
そうすると、この配点を落とすのです。

当たり前のことを当たり前に書くのが論文試験です。
そして、明細書も同様です。「解っている」技術であっても、記載が無ければ中間時に主張は出来ませんし、権利行使時に限定解釈されるおそれがあるのです。

具体例を一つ説明しましょう。拒絶理由に対する応答場面を想定して下さい。
このとき、面接審査をすることがあります。
面接審査では、先願との差異、優れた効果等を主張をします。
それによって、審査官も「なるほど!」と認めてくれる場合があります。

そのとき、審査官から一言、おもむろに出る嫌な言葉があります。

効果も解ったのですが、それって明細書の何処に書いてありますか?

出願人(発明者)としては、当たり前のことだったため、書いていない場合があるのです。

例えば、データ転送等の通信技術において、パケットがエラーだったら廃棄するというのは当たり前の処理です。
しかし、廃棄しなくても処理が出来る場合もあります。
そうすると、明細書に「エラーの場合は廃棄する」と記載が無ければ、当然導き出せる事項ではなくなります。
したがって、発明者が主張する効果の前提が崩れる場合があります。
「それは当たり前ですよ」というのは通用しません。

論文答案も同じです。「問題文を読めば解る」というのではダメなのです。
そして、問題文に日付が書いてあれば、日付を使って検討しなければ意味が無いのです。

皆さんの点数になるのは答案だけです。答案に記載が無ければ点数になりません。
必ず記載が完結する答案を心がけて下さい。