「Web−POS方式事件」(東京地判平成25年10月17日)

自分としては一つ気になる判例があるので、メモ的に記載しておきます。
弁理士試験とは関係ありません。
なお、詳細に検討している訳ではないので、細かい点で問題があるかもしれません。その点をご了承下さい。
なお、判決文はこちら

事件の概要

被告Yは、インターネットにおいて、ショッピングモールを提供していました。
この、ショッピングモールのシステム(画面等)について、原告Xが有するWebを用いたPOSに関する特許発明に基づいて、権利行使がされた事件です。

この中で、特許発明の請求項(非常に長いクレームです)のうち構成要件Cに関する内容が争点の1つとなりました。

C.該サーバ装置からクライアント装置に対して送信された,初期フレームプログラムが,該クライアント装置において実行されることにより,少なくとも,
1)該クライアント装置から上記サーバ装置に対して,カテゴリーリストプログラムのダウンロードを要求するHTTPメッセージが送信される過程,
2)該要求に基づき,Webサーバ・プログラムがHDDの記憶媒体からカテゴリーリストプログラムを読み出し,上記サーバ装置から該クライアント装置に対して,上記カテゴリーリストプログラムが送信される過程,
3)上記クライアント装置から上記サーバ装置に対して,PLUリストサーバプログラムの実行を指示するHTTPメッセージが送信されると,上記サーバ装置が,PLUリストサーバプログラムを起動して,PLUリストプログラムを生成し,上記クライアント装置に対して,PLUリストプログラムが送信される過程,
4)及び,商品情報の入力毎に,それに対応するPLU情報が上記サーバ装置に問い合わされる過程,
からなり,

クレーム上では、C柱書の初期フレームプログラムと、C1からC4の各過程とが実行される記載となっております。

さて、C柱書の中にある「ことにより」という表現が本件は問題となりました。

すなわち、被告Yは、構成要件柱書に記載されている「初期フレームプログラム」と、C1〜C4に記載されている処理は、「実行されることにより」と記載されていることから、「順序」が決まっていると主張しました。その上で、被告が実施している処理は「同時」に行われるため、構成要件を充足しないとの主張をしたのです。
原告Xは、

構成要件Cは,初期フレームプログラムがクライアント装置において「実行されることにより」という文言を含むが,この文言は,構成要件Cの1)ないし4)の過程全体に係っているものと読むべきであるから,初期フレームプログラムの実行と,カテゴリーリストプログラムのダウンロードとの間には,厳密な前後関係は要求されておらず,前者が後者に先行しなければならないものではない。また,上記の文言は,因果関係を示すものでもなく,構成要件Cの1)ないし4)の過程が初期フレームプログラムの実行なしには行われないという程度の関係を示すものにすぎないと解すべきである。

と主張します。

裁判所の判断

この点について裁判所は以下の通り判断しました。

これらのことに,日本語において,「ことにより」という語は,一般的に,物事の間に時間的な前後関係のみならず因果関係があることを意味する語として用いられていることを併せ考慮すれば,構成要件Iにいう商品カテゴリーリスト及び商品PLUリストについては,それぞれ次のような手順を経て表示されたカテゴリーリスト及びPLUリストを意味し,また,構成要件Cにいう初期フレームプログラム,カテゴリーリストプログラム及びPLUリストプログラムも,このような手順を経てカテゴリーリスト及びPLUリストを表示させるようなプログラムを意味するものと解するのが相当である。
 すなわち,商品カテゴリーリストについては,上記構成要件C柱書のとおりの手順で初期フレームプログラムが実行されることにより,クライアント装置に第1フレームの表示領域が確保され,この第1フレームの表示領域をターゲットとして,C1〜C4のとおりの手順でカテゴリーリストプログラムが実行されることにより,第1フレーム内に表示されたカテゴリーリストを意味するものと解するのが相当である。
また,商品PLUリストについては,上記C柱書のとおりの手順で初期フレームプログラムが実行されることにより,クライアント装置に第2フレームの表示領域が確保され,この第2フレームの表示領域をターゲットとして,C3のとおりの手順でPLUリストプログラムが実行されることにより,第2フレーム内に表示されたPLUリストを意味するものと解するのが相当である。

更に、

しかしながら,構成要件Cにいう「より」は,因果関係等を意味する自動詞「よる」の連用形であって,動詞等に連なる語法において用いられるものであるから,構成要件Cの「ことにより」が,構成要件Cの1)ないし3)の「送信される」及び4)の「問い合わされる」の各動詞にそれぞれ係っていることは文法上明らかであり,これと異なる読み方をすべき根拠は見当たらない。
また,仮に,構成要件Cの「実行されることにより」を原告の主張のように解したとしても,前記ア及びイのとおり,被告システムにおいては,カテゴリーリスト及び個別商品リストの表示領域を確保するプログラムと,その内容を表示するプログラムとが,それぞれ一つのHTML文書のプログラムの実行過程において同時に実行されており,構成要件Cに記載された手順を順次実行するという形では実行されていないのであるから,いずれにせよ,上記ウの結論を左右するには足りないというべきである。

すなわち、原告Xの特許発明は、初期プログラム+処理プログラムが分かれている、そして明細書にもそのような記載となっている。
被告Yの実施品は、一つのHTML文章内で記載されており、当該HTML文章の実行過程において同時に表示されるから技術的範囲に入らないというものでした。

指針

ざっと読んだ感じでは、この手の処理について、「順次処理」するか、「同時処理」するかは、設計事項の範囲と考えてしまいます。したがって、出願時の明細書についても、「順次処理」だけで記載を終わらせてしまうこともあるでしょう。
もし、明細書に「なお、同時に処理しても良い」という記載があれば、少しは変わったのかも知れません。

更に「実行されることにより」という表現については、お恥ずかしい話「時系列的な要素」をあまり意識しておりませんでした。
確かに、請求項の記載では「より」という表現は因果関係を示すので、請求項で使うときは意識しております。
しかし、「実行されることにより」という表現はソフトクレームではよく使う表現ではないでしょうか?

今後、自分としてもクレームの記載において、この点を少し意識しておきたいと考えております。

あとは、可能な限り明細書に実施形態の幅を記載をしておくという点です。
どうしても、「中間処理」で影響が無い記載は薄くなりがちです。
しかし、「訴訟に強い特許」を考えるのであれば、こういう点を意識して特許請求の範囲及び明細書を作成するべきでしょう。

自分が書いている明細書のスタイルについて、少し考えさせられる判例でした。