4条1項10号と先使用権との周知性

ゼミの答案で少し話題になったので記載しておきます。
使用商標が先使用権を有する場合、必ず4条1項10号に該当するかという点です。

青本の記載を参酌すれば、4条1項10号の過誤登録の救済規定として商標法32条(先使用権)が認められていると記載があります。したがって、受験生の感覚としては、先使用権を有する場合、相手の商標権には4条1項10号の無効理由があると考えても良さそうです。

ここで問題となってくるのは、先使用権と4条1項10号との「周知性」の差です。上記青本の解説は、同一である説を採っています。
それに対して、先使用の周知性の方がゆるいという判例がいくつもあります。

例えば、東京高判平成5年7月22日「ゼルダ事件」です。

商標法32条1項所定の先使用権の制度の趣旨は、識別性を備えるに至った商標の先使用者による使用状態の保護という点にあり、しかも、その適用は、使用に係る商標が登録商標出願前に使用していたと同一の構成であり、かつこれが使用される商品も同一である場合に限られるのに対し、登録商標権者又は専用使用権者の指定商品全般についての独占的使用権は右の限度で制限されるにすぎない。
そして、両商標の併存状態を認めることにより、登録商標権者、その専用使用権者の受ける不利益とこれを認めないことによる先使用者の不利益を対比すれば、後者の場合にあっては、先使用者は全く商標を使用することを得ないのであるから、後者の不利益が前者に比し大きいものと推認される。
かような事実に鑑みれば、同項所定の周知性、すなわち「需要者間に広く認識され」との要件は、同一文言により登録障害事由として規定されている同法4条1項10号と同一に解釈する必要はなく、その要件は右の登録障害事由に比し緩やかに解し、取引の実情に応じ、具体的に判断するのが相当というべきである。

このように、商標は個別具体的に判断する必要があります。
したがって、実務的には商標を出願前から使用しているのであれば、侵害者側は先使用権を主張していくことになります。

受験生としての判断

判例云々は参考で有り、受験生としては「点数が取れる」内容で記載すべきです。
青本で「同一」と記載されているのですから、とりあえず同一と判断しても間違えではありません。
この周知性の判断について合格前に議論するのは、試験戦略上は得策ではありません。

そして、困ったときは、両方の主張を記載すれば済む問題であり、あとは記載量でリスク分散をすべきです。

論文試験は「正解」を求めず、よりリスクの低い記載(減点されにくい記載)にして良くのがよろしいかと思います。