本質的な質問について

質問があったのでお答えします。

仮専・仮通は出願当初の明細書等の範囲内で設定することが認められていますが(特34-2、34-3)、補正されて、当初の範囲よりも権利が狭くなり、仮専・仮通で設定していた範囲が、権利範囲外になってしまったものについては、当然実施権は認められないということでよろしいでしょうか。
よろしい場合、このように認められないとする扱いは特許法等には直接記載がないことでしょうか。民法等で処理することでしょうか。

そもそも、仮実施権は、特許権が発生した後に専用実施権・通常実施権になるものです。
例えば、仮専用実施権であれば、登録後専用実施権に変身します。

この場合、出願中の権利については、最大限出願当初の明細書の範囲内で設定(許諾)することが可能です。
例えば、イ/イロハ(特許請求の範囲:イ/明細書:イロハ)の場合、イロハの範囲で仮専用実施権を設定可能となります。
これは、「将来的に補正がされても良いように」という趣旨です。
特許請求の範囲でしか設定できないとなると、中間でイ→ロについて補正されると、また改めて仮専用実施権を設定しなければならないからです。
そして、仮専用実施権者は、将来的に専用実施権になれる人ということで、それ自体に価値はあまり無いと考えて良いと思います。

さて、特許権が設定登録された後、仮専用実施権者は専用実施権者に変身します。
例えば、先程のイ/イロハについて、特許権者は「イ」について発明を独占排他的に実施できます。
ロ・ハについては、権利請求をしていないので、当然第三者は自由に実施できます。
特許権の範囲で専用実施権が設定されますので、専用実施権者が独占排他的に実施できる範囲は「イ」です。
「ロ・ハ」については、全く関係無い話になります(第三者も実施できる範囲です)
したがって、この部分について、そもそも特許権がありませんから、実施権という話にはなりません。

質問者は、「当初の範囲で権利範囲が狭くなり」と書いてありますが、補正により狭くなっても話は同じ事です。
権利範囲から外れたところは第三者にとっても実施可能な技術(自由技術)になっているからです。
(なお、当初明細書の範囲で設定されて、補正で狭くなった云々だと、特許請求の範囲の概念が出てきていないのも気になるところです)

さて、受験生の質問には「コアとなる質問」と、「単なる知識の質問」とがあります。
「単なる知識の質問」はそれほど難しくありません。
こちらもあっさり回答して終わりです。
そして、上記質問も、知識として考えれば「権利範囲から外れます」で終わりです。

今回敢えてここまで書いたのは、これが「コアとなる質問」だからです。
この質問の裏に、最初に書いたように「特許請求の範囲」と「明細書」との関係とが本当に理解できていない点にあるからです。
当然受験生であれば、この2つの関係や権利範囲の話については知っていると思います。
しかし、本当に理解できていたら、当該質問は起こりえない質問なのです。

このように、「基本原則が解っていない」ために起こる質問というのはかなりあります。
基本原則のうち、

  • 特許の特許請求の範囲と明細書の関係
  • 意匠の物品と形態との関係
  • 商標の3大機能
  • 商標の使用
  • 指定商品と商品との関係

については理解がかなり難しいです。
したがって、本来は解らなくて当たり前です。
そして、この箇所が解らないで勉強を進めると結果として暗記の対処療法となっていきます。

受験生は難しいことに目を奪われがちですが、本当に難しいのは「基本原則」です。
「商標の3大機能って解りますか?」と聞いて「解ります」って答える受験生は、理解できていないことが多いです。
普段から相当意識して学習する事が大切だと思います。
「中々合格しない」という受験生はこの辺を軽視しています。

自分は普段からこの「基本原則」はものすごく意識しています。
だからこそ、規定を忘れたとしても、妥当な結論を導き出すことができるのです。