国内優先権における仮実施権者について

国内優先権について、仮専用実施権者と、仮通常実施権者とで扱いが違うのは何故か?という質問がありました。

まずはオーソドックスに。
本来は、平成23年改正前は両者(仮通については登録された者)とも承諾が必要でした。
これは、優先権主張すると、どの範囲まで実施権が認められるか解らないからです。
受験生は、「イ」→「イロ」に優先権を主張すれば、「イ」だけ認めれば良いと考えるかも知れません。
しかし、実際の出願は、こんな単純な記載ではありません。
明確に第1実施形態に第2実施形態を追加したのであれば解りやすいです。
しかし、後の出願で第1実施形態自体をいじってしまう場合もあります。
また、4〜5件の出願をまとめるということもあります
(こうなると、整合性とるのが出願大変です。だけど、出願手数料は安かったりします・・・)

優先権出願は、結構どこがどこだかぱっと見て解らなくなることも多いのです。
したがって、以前は一律承諾が必要だったのです。

ところが、平成23年法改正で仮通については登録制度がなくなりました。
特許庁としては、誰が仮通常実施権者か把握できなくなりました。
「じゃー仮通は良いよ。勝手にしてよ」って承諾の人から削ってしまったのです。
そうすると、困るのは基礎出願の仮通常実施権者です。
なぜなら、基礎出願はみなし取下げとなるからです。
このため、仮通常実施権者の実施を確保するため「基礎出願の範囲だったら認めてあげるよ」という規定になったのです(特34条の3第5項)。

さて、これがオーソドックスな説明ですが、自分はこの説明はあまり好きじゃありません。
この説明をするためには、旧法制度の説明をする必要があるからです。
(更に、現行制度が、仮専と、仮通とで揃っていないのは何故か?という疑問がでるからです)

そうなると、まず仮専用実施権は何故取下げになるか。
それは上述したように、どの範囲が認められる範囲か明確ではないからです。
仮専用実施権者は、特許権が発生した後、専用実施権者に変身することで独占排他権を有する者です。
独占排他権を有するからわざわざ高いお金を払って専用実施権者でいます。

それにも関わらず、どこまで出来るか解らないというのは気持ち悪いのです。
青本では、特許権と専用実施権とは重ならなければ良いと書いてありますが、それは本当に重ならない場合です。

例えば、基礎出願がびっくりする位柔らかい「餃子」の発明だったとします。
まるで小籠包かと間違えるような、だけど皮はパリッとした画期的な餃子です。
っと、餃子食べたくなってきましたが・・・話を続けます。

さて、この餃子の発明。
優先権主張することで、実施形態にしそが入った「しそ入り餃子」が追加されました。
仮に、これが権利になったとします。基礎出願には「しそ入り餃子」の記載がありません。
そうすると、仮専用実施権者の範囲からは外れています。
そうなると、特許権者が「しそ入り餃子」を実施出来てしまうってちょっと納得いかない事態になります。

そもそも、特許になる位なのでこの餃子は画期的です。
専用実施権者は色々な餃子も考えていたのに、特許権者が優先権で追加した「しそ入り餃子」を独占的に販売するというのは頂けません。
(だいたい、この特許権者も「餃子」を実施していますので、専用実施権侵害になります)

専用実施権は「独占権」です。
結果として、このように面倒なことは止めましょうというのが承諾を要求する理由です。

なお、通常実施権者は自分が発明を実施出来れば良いので、仮に餃子を通常実施権者がつくって、特許権者が「しそ入り」餃子をつくることは問題無いでしょう(そもそも、特許権者も餃子を作れます)
なので、仮通常実施権者は基礎出願の範囲で引き継げれば、将来的に自分が許諾された範囲は実施できるので問題有りません。

本当の発明の例だともう少しピンとくるかも知れません。
ただ技術の説明を入れるとまた難しくなるので、いつもの如く食べ物を例に説明しました。