分割出願と29条の2、質問に対する回答のスタンス

分割出願と29条の2との関係についてご質問を頂きました。
とくに、青本P.165の記載です。

29条の2の規定は、出願当初に願書に添付した明細書又は図面に記載されている発明は後願を拒絶できることとなる(出願後補正により新たに追加された事項は含まれない)。これを分割による新たな特許出願についてみると、新たな出願に係る発明は、もとの特許出願の当初の明細書に記載されているものでなければならないが、その発明を説明するために新しい技術的事項がその明細書の詳細な説明の項とか図面に入ってくることがあり、その場合にはそれが入ったものが分割出願についての出願当初の明細書及び図面となる(2項本文)。分割による新たな特許出願はもとの特許出願の時まで出願日が遡るので、なんらの手当をしない場合には、29条の2の規定の関係では、実際には分割時にはじめて明細書に記載された発明までが、もとの出願日まで遡って後願を拒絶できるという不合理な結果を生ずる。

ここについては、かなり多くの受験生に質問を受けるところです。
ということで、一説をお伝えしておきます。

分割出願の範囲について

基本、分割出願は、分割元出願と明細書はほぼ同じ出願をします。
課題解決手段等一部いじることはありますが、原則はそのままです。
それは同一の範囲でないと分割出願が認められず、遡及効を得られない可能性があるからです。分割出願は補正の一種でもあります。すなわち、出願当初の範囲を超える補正(分割)は認められないという理解でよろしいかと思います。

青本の記載

それでは、青本の記載はどういう意味でしょうか。青本というのは、法改正が入ると改正分が追補されていくイメージとなっています。
従前の旧法の部分は削除されたり、修正されることもあれば、そのままのこともあります。それは、旧法で出願したものは、旧法で処理されるという点もあるからです。
例えば、査定後分割出願は、平成19年4月1日以前の出願には使えなかったりします(弁理士試験では一切無視して良いような出題になっています)。

さて、歴史をひもときますと、そもそもこの規定は昭和45年法改正で入った規定です。
当時は、補正(分割)については、「要旨変更をしない範囲」で認められていました。すなわち、発明は要旨を変更しない(簡単に言うと発明の内容が変わらない)のであれば、新しい事項を追加する補正が認められていました。
さすがに、出願当初に記載していない事項が入るのはおかしい!という話になり、それは禁止されます。それが平成5年法改正です。

したがって、青本の記載というのは当時の法制度制定時の考えでいくと間違えではありません。しかし、現行法では「新たな事項が入る」というのは考えにくい状況になっています。

そもそも分割出願は原出願が公開前取下げにならない限り、原出願で29条の2の規定が利用可能です。さらに、原出願が公開されれば29条1項の適用もあります。
また、この規定が無いと分割出願が原出願から5年後に分割出願された場合。5年以上29条の2が使える状態になってしまいます。
したがって、そのまま「他の出願」との関係では遡及させないという状態にしてあります。


以下、質問に対するスタンスです。

質問に対する回答

ということで、この質問自体はしようと思えばそのままして終わりです。
上記内容をお伝えすれば平和的に解決です。
「わかりました、ありがとうございます」
と。ただ、ここで解ったのは「疑問点」に過ぎません。

質問をしている方は、やはり勇気を振り絞ってして頂いていると思っています。
こちらとしても、質問が来ることは受験生の疑問点が解り非常にありがたいのです。

ただ、そもそも質問に至った理由があるはずなのです。
単純に解らないだけではない理由、受験生が見えていない原因があります。
そして、質問に至った原因から解消しない限り、単に「解らないところを治す」という対処療法になってしまいます。

例えば、入門生(1年目受験生)が細かい質問をしてくる場合、「試験勉強としての意識」がまだまだ弱いという部分があります。
「いやいや、自分はちゃんと考えている」と思う入門生がいれば、言い過ぎかも知れませんがそれはおごりです。
優秀な人達が中々受からず苦労している試験です。

実際、「大丈夫」と考えていた人の方が受験が長期化しやすいのです。

弁理士試験を勉強する以上、かならず「試験勉強」であることを意識して欲しいと思っています。最初から「趣味の勉強」「5年計画」というのであれば構いません。しかし、皆さんは1年でも早い合格を願っている訳です。

確実に合格するために、今すべきことをしっかり把握して頂きたいのです。
ただ、それがどこか?は受験生は解りません。
今解らなくても、後で解るかも知れません。
だから「疑問ノート」をつけて欲しいと思っています。

そうはいっても質問をするなということでは有りません。
多いに質問をして欲しいのです。
そのとき、たいしたことが無ければサクッと回答して終わります。
しかし、「これは重要」と思えば、こちらも時間をつかって説明します。
ぱっと見ると「いじわるな講師だな〜」と思われるかも知れません。
しかし、そこには「早く受かって欲しい」という気持ちの裏返しです。

この44条と29条の2との関係は試験的に重要です。
1年目の受験生であれば、まずは結論を押さえて欲しいところです。
そのときに自分なりの理由付けがあれば完璧です。
ただ、それが必ずしも正しくなくても構いません。
実際多くの受験生がつまずくところです。
例えば、上述したように説明するのであればかなり旧法の話も必要です。
本来はここで意匠法、商標法の要旨変更の補正の話もあるでしょう。
これらの事を、初学者が全てを正しく理解していくのは、時間もかかりますし効率的ではありません。

気がつくか否か

これに併せて、例えば、特許法29条1項の新規性における「同一」についてはどう意識しているか?という話があります。
入門の時期は「同じ発明なら新規性ありません」と教わります。
受験生もその理解で終わりです。

しかし、ここはもう少し広がる話があります。
それは、「実質同一」である必要があるということです。
だから、公知発明イと異なる発明ロが新規性に該当する場合があります。
イとロとが実質同一であった場合です。
(ただ、弁理士受験の暗黙ルールとして、イ、ロと書いたときは別発明です。試験的には考える必要はありません。あくまで例です)

新規性について、きっちり押さえるなら、この実質同一も試験にでるので押さえる必要があります。
しかし、最初からこういう細かいところを押さえていくと、本質的な部分がわからなくなります。したがって、しばらくは「同じ発明なら新規性なし」で十分なのです。

話を戻しましょう。
分割出願と29条の2との関係も同様です。
受験生は初めて勉強するところで不安で仕方ない気持ちはわかります。
しかし、こちらは毎年受験生を見ていると「ここは後でやった方が効率が良い」ということは把握しています。だからこそ「今はやらなくて良い」「流して良い」ということを明確に伝えているのです。
受験3〜4年目ならまだしも、1〜2年目であれば、基本的な事項をきっちり押さえるべきです。

ここで重要なのは難しいことを多く理解した受験生が受かりやすいのではありません。
基本的事項を、しっかり理解した受験生が受かりやすいのです。

質問の回答

長くなりましたが・・・
ご質問について、割と素直に回答しないことがあります。

質問して「意地悪だな〜」「さっさと答え言ってよ」「めんどくさい!」と思うこともあるかも知れません。
こちらからすれば、言われたことだけを答えるのが一番楽ですし、時間もかかりません。しかし、それでは対処療法ですし、根本的な解決にはなっていません。

1年目と2年目の人、学習進度の進捗状況、得意不得意科目。
それによって回答の仕方も変わってきます。

いつも質問をしましょうといっております。
そして、折角質問をしてくれているのです。
出来るだけ、質問内容、質問者の状況に応じた回答をしたいと考えています。
色々とございますが、お付き合い頂ければと思います。

追記

途中にある1年目の受験生の「おごり」という表現はちょっと悩んだのですが、敢えて書いています。
要するに、優秀な先輩受験生が苦労している中、最初から焦ることは無いですよというニュアンスです。
色々な受験生と話をしていると、1年目の受験生はまだ全体が見えていない分「焦り」を感じる人が多いのです。
「そりゃ、始めたばかりだから解るはずないよ」位の気楽なスタンスで良いと思っています。