ペンライト

最近、アイドル等のライブやコンサートではペンライトを使うことが多いようです。
少し前はケミカルライト(サイリューム)だったと思いますが、使い捨てだとお金もかかるし、電池式も明るくなったからということでしょう。ドン・キホーテ等でも販売されています。

さて、このペンライトに関する無効審判事件の審決取消訴訟知財高判 H28.1.14/平成27年(行ケ)第10069号)がありました。

特許権者はペンライトを製造している会社で、「棒状ライト」について特許権を有しており、この特許権についての無効審判です。
無効理由としては、特許権者が出願前に「キングブレード・マックス」という製品を既に販売していたため、公知となっているというのが理由でした。
本件特許権の出願日は平成24年5月29日です。
しかし、被告は平成24年4月20日にドン・キホーテ秋葉原店で上記製品を購入しているのです。

入門講座を受験した受験生であれば「出願前の販売行為があったのだから、特許法29条第1項第2号に該当する」と判断するでしょう。
基本的な考え方は確かにそうですが、特許権者としては簡単に引き下がる訳にはいきません。

特許権者の主張としては、

原告は,本件製品の構成Fは本件製品を破壊しなければ知ることができないし,本件製品のパッケージ裏面の「意図的に分解・改造したりしないでください。破損,故障の原因となります。」との記載(甲4)により,本件製品の分解が禁じられており,内部構造をノウハウとして秘匿するべく購入者による本件製品の分解を認めていないのであるから,本件製品の購入者は社会通念上この禁止事項を守るべきであり,警告を無視する悪意の人物を想定し,本件製品の破壊により分解しなければ知ることができない構成Fについて「知られるおそれがある」と判断することは特許権者である原告に酷である

と主張しました。
上記の特許権の構成要件のうち、1つは分解しないと分からないものでした。
したがって、本件製品には分解禁止の旨があるから、新規性は喪失していないという主張です。

しかし、当該主張について、裁判所は原則通りに判断して認めませんでした。

本件製品のパッケージ裏面の前記記載は,その記載内容等に照らすと,意図的な分解・改造が本件製品の破損,故障の原因となることについて購入者の注意を喚起するためのものにすぎないといえる。本件製品のパッケージ裏面の意図的な分解・改造が破損,故障の原因となる旨の記載により,この記載を看取した購入者がそれでもなお意図して本件製品を分解し,本件製品を破損・故障させるなどした場合については,販売者等に対し苦情を申し立てることができないということはあるとしても,この記載を看取した購入者に本件製品の構成を秘密として保護すべき義務を負わせるものとは認められず,そのような法的拘束力を認めることはできない。また,上記記載があるからといって,社会通念上あるいは商慣習上,本件製品を分解することが禁止されているとまでいうことはできず,秘密を保つべき関係が発生するようなものともいえない。
仮に,原告が本件製品のパッケージ裏面に前記記載をした意図が購入者による本件製品の分解禁止にあったとしても,前記認定を左右するものではない。

すなわち、分解禁止であったとしても、販売した以上、購入者がどのように扱うかは自由だから新規性は喪失してしまっている。よって公知発明となっているというものです。

おそらく、受験生としても基本論点の一つであり、入門講座の初期に学習する論点の一つです。
このような基本的な論点で争いになったのは少し面白いと思います。
読んでも分かりやすい判例です。

さて、弁理士としては、代理人の主張を通すべく色々な主張をします。今回も原告主張の記載を読んでいると、

パッケージに禁止事項が明確に記載された商品を購入した者は,社会通念上,その禁止事項を守るべきであることはいうまでもない。被告は,例えば,日常で良く目にする「列に割り込まないでください」,「ゴミを捨てないでください」,「覗かないでください」などの注意事項は,法的根拠がなければ守る必要がないと考えているのであろうか。

との表現を読んで、かなり苦労されて主張したのだなと感じてしまいました。