フランク三浦事件

フランク三浦事件が、一般の新聞でも多く話題になっていたので、少し取り上げて見たいとおもいます。

原告である著名な時計のブランド「フランク ミュラー」が、それのパロディ製品「フランク三浦」の商標について無効を争った事件です。特許庁では無効とされたことが、審決取消訴訟で争われました。

結論は、裁判所は「両商標は類似しない」と判断し、特許庁の判断を覆しました。
この辺のパロディ製品については、特許庁と異なり、裁判所は淡々と類否判断を行って結論を出すことが多いようです。

パロディ関係で有名な判例は、SHI-SA事件と、ローリングストーンズマーク事件でしょう。

SHI-SA事件(知財高判H22.7.12)


左が対象となった商標、右が引用商標です。
これについても、特許庁は類似と判断していましたが、裁判所は非類似と判断しました。

ローリングストーンズマーク事件(知財高判H22.1.13)


左が本件商標で、アシッド・ブラック・チェリー(ABC)というロックバンドです。同じロックバンドでイギリスで著名なロックバンドであるローリングストーンズが使用する商標(右側の引用商標)と類似しているとして争われました。
これらは、15号の「混同を生じるか」が争われました。裁判所は、レールデュタン事件を踏まえた上で、「ABCの需用者の年齢層が主として10代から30代である。それに対して、ローリングストーンズの需用者の中心は50代から60代であって、異なる」と判断しました。
また、「取引実情からも音楽は嗜好性が高いので、注意力をもって観察するのが一般的であるから、混同することは考えにくい。」と判断しました。

このように、「パロディだからだめ」という考えではなく、しっかりと需用者、取引実情を判断して、結論を出しています。

今回のフランク三浦事件についても、フランク三浦と、フランク ミュラーの取引事情が判断されたようです。

以下、長いですが、判例で気になるところからいくつか抜粋していきます。主な争点は4条1項11号、15号の該当性です(19号は非類似と判断されたので適用されず)。

4条1項11号

規範

商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,しかも,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきである。もっとも,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,上記3点のうちその1において類似するものでも,他の2点において著しく相違することその他取引の実情等によって,何ら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認め難いものについては,これを類似商標と解すべきではない(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
そこで,以下においては,上記の観点を踏まえて,本件商標が引用商標1ないし3と類似する商標かどうかについて判断する。

まず、しっかり規範が書かれています。
少し長いですが、受験生でも使えそうなフレーズだと思います。

商標の類似性

本件商標と引用商標1を対比すると,本件商標より生じる「フランクミウラ」の称呼と引用商標1から生じる「フランクミュラー」の称呼は・・・両商標を一連に称呼するときは,全体の語感,語調が近似した紛らわしいものというべきであり,本件商標と引用商標1は,称呼において類似する。

と、称呼類似の判断です。しかし、

他方,本件商標は手書き風の片仮名及び漢字を組み合わせた構成から成るのに対し,引用商標1は片仮名のみの構成から成るものであるから,本件商標と引用商標1は,その外観において明確に区別し得る
さらに,本件商標からは,「フランク三浦」との名ないしは名称を用いる日本人ないしは日本と関係を有する人物との観念が生じるのに対し,引用商標1からは,外国の高級ブランドである被告商品の観念が生じるから,両者は観念において大きく相違する
そして,本件商標及び引用商標1の指定商品において,専ら商標の称呼のみによって商標を識別し,商品の出所が判別される実情があることを認めるに足りる証拠はない。

外観、観念は大きく相違するということで、最終的には非類似と判断しました。

著名性の主張

被告は、被告商標の著名性を根拠に類似性を主張しますが・・・

しかしながら,本件商標は,その中に「三浦」という明らかに日本との関連を示す語が用いられており,かつ,その外観は,漢字を含んだ手書き風の文字から成るなど,外国の高級ブランドである被告商品を示す引用商標1とは出所として観念される主体が大きく異なるものである上に,被告がその業務において日本人の姓又は日本の地名に関連する語を含む商標を用いていることや,そのような語を含む商標ないしは標章を広告宣伝等に使用していたことを裏付ける証拠もないことに照らすと,本件商標に接した需要者は,飽くまで本件商標と称呼が類似するものの,本件商標とは別個の周知な商標として被告使用商標ないしは引用商標1を連想するにすぎないのであって,本件商標が被告商品を表示すると認識するものとは認められないし,本件商標から引用商標1と類似の観念が生じるものともいえない。

として非類似と判断します。

取引実情についてです。

本件商標と引用商標1とでは前記(ア)で述べたとおり,観念や外観において大きな相違があること,被告商品は,多くが100万円を超える高級腕時計であるのに対し((2)ア(ア)b),原告商品は,その価格が4000円から6000円程度の低価格時計であって(甲201,202),原告代表者自身がインタビューにおいて,「ウチはとことんチープにいくのがコンセプトなので」と発言しているように(甲206),被告商品とはその指向性を全く異にするものであって,取引者や需要者が,双方の商品を混同するとは到底考えられないことなどに照らすと,上記事情は,両商標が類似するものとはいえないとの前記(ア)の認定を左右する事情とはいえない。

価格帯も違うし、異なる製品は明らかでは?という指摘だと思います。

4条1項15号

続いて、4条1項15号の規範です。

商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。そして,上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。

色々検討した上で、混同も生じないと判断しています。その中の1つには、例えばフランク ミュラーは、日本人の名前の時計とか出さないですよね?って話です。

加えて,被告がその業務において日本人の姓又は日本の地名を用いた商標を使用している事実はないことに照らすと,本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準としても,本件商標を上記指定商品に使用したときに,当該商品が被告又は被告と一定の緊密な営業上の関係若しくは被告と同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあるとはいえないというべきである。
そうすると,本件商標が「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するものとは認められない。

15号はただ乗りだからといって該当する訳では無いですよって判断です。

原告商品と被告商品は,外観が類似しているといっても,その指向性を全く異にするものであって,高級ブランド商品を製造販売する被告のグループ会社が,原告商品のような商品を製造販売することはおよそ考え難いことや,前記(2)で指摘した点に照らすと,上記事情は,本件商標が「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するものとは認められないとの認定を左右する事情とはいえない。○1については,確かに商標法4条1項15号の規定は,周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し,商標の自他識別機能を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護することを目的とするものではあるものの,飽くまで同号に該当する商標の登録を許さないことにより,上記の目的を達するものであって,ただ乗りと評価されるような商標の登録を一般的に禁止する根拠となるものではない。したがって,原告商品が被告使用商標の著名性に乗じ販売されたことを主張するのみでは,本件商標が同号に該当することを根拠付ける主張となるものとはいえない。

よって、「パロディ」だから15号には該当しないとなりました。

本件商標が商標法4条1項15号に該当するか否かは,飽くまで本件商標が同号所定の要件を満たすかどうかによって判断されるべきものであり,原告商品が被告商品のパロディに該当するか否かによって判断されるものではない

また、被告が「混同を生じているじゃないか」という証拠(Yahoo知恵袋の記事)について、裁判所は逆に考えているところも、面白いと思います。

乙2は「化物語の阿良々木君の腕時計が欲しいと思い調べたら50万もするフランクミュラーのやつなんですね・・・似たようなやつで安いものはありますか? 1万から2万あたりでお願いします。」との質問に対し,「フランク三浦が最右翼です。」,「やっぱりフランク三浦しかありませんよ!」,「セイコーウォッチカレントはいかがでしょうか(^^)」などとの回答が寄せられているものであるので,乙2は,「フランク ミュラー」の時計ではない時計の紹介を求め,それを前提として回答をしたものであることが明らかである。また,乙4も「フランク三浦」の時計につき,「本家から苦情はないのでしょうかね?」などと記載されているもので,原告商品が被告商品とは別物で,しかも,本家,すなわち被告の許諾を得ていないことを認識した上での記載であることが明らかである。

と、このように具体的な事案を検討した上で、最終的には「非類似」と判断し、無効審判を取り消したようです。