セガ vs レベルファイブ

ゲーム業界で侵害訴訟がニュースになりました。

セガがイナズマイレブンを作っているレベルファイブを訴えたという内容。レベルファイブというと、レイトン教授のイメージが強いのですが、イナイレもレベルファイブでした。実際どんな特許か解らないのですが、以下のサイトに記事が出ていました。

時間もなく自分ではサーチ等していませんが、上記記事の特許出願についてはまだ登録になっていません。したがって、おそらく親出願(特許4807531/特願2008-275989)の方でしょう。

請求項について

上記特許4807531(特許1)のクレームをみると、例えば請求項1は以下の通りです。

【請求項1】
表示画面と、前記表示画面上に配置されたタッチパネルと、実行手段と、ゲームプログラムが格納されたメモリとを備え、前記実行手段による前記ゲームプログラムの実行により前記表示画面に、ユーザーによる操作に応じて移動可能に設定された複数の制御対象を表示し、前記ユーザーによる前記タッチパネル上での操作に応じて前記制御対象の挙動を制御するように構成されたビデオゲーム装置であって、
(a)複数の制御対象を前記表示画面に表示し、
(b)前記ユーザーのタッチパネル上での操作によって前記ユーザーから接触された接触位置の移動が接触状態を維持された状態で行われたときドラッグ操作が開始されたと判定し、
(c)前記ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動中に、該接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を開始し、
(d)前記移動を開始した制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動に遅れて追従するように、前記接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を続行し、
(e)前記(d)の処理を続行中に前記接触状態が開放されたとき当該開放位置を終端位置として前記ドラッグ操作が確定したと判定する
ことを含む処理を実行するように構成されてなるビデオゲーム装置。

さらにこの出願自体も、分割出願の子出願です。親出願として特許4258850/特願2004-381199(特許2)があります。

【請求項1】
表示画面と、前記表示画面上に配置されたタッチパネルと、実行手段と、ゲームプログラムが格納されたメモリと、を備え、前記実行手段による前記ゲームプログラムの実行により前記表示画面に、ユーザーの操作に応じて移動可能に設定された複数の制御対象を表示し、ユーザーのタッチパネル上での操作に応じて前記制御対象の挙動を制御するように構成されたビデオゲーム装置であって、
(a)前記複数の制御対象を前記表示画面に表示し、
(b)前記制御対象の前記表示画面上に表示された位置が前記操作によって前記ユーザーから接触された接触位置となったとき、当該制御対象が複数の制御対象のうちから選択されたと判定し、
(c)前記ユーザーの操作に応じて前記接触状態が維持された状態で前記制御対象が表示された位置と異なる位置へ前記接触位置の移動が行われたとき、前記処理(b)において少なくとも1つの制御対象が選択されたと判定されたときの接触の位置を開始の位置としてドラッグ操作が開始されたと判定し、
(d)前記処理(c)に応答して、前記開始位置に表示されている前記選択された制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動中に、前記選択時の前記接触位置を開始の位置として該接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を開始し、
(e)前記移動を開始した前記制御対象を、前記接触状態が維持された状態にある前記接触位置の移動に遅れてこれに追従して前記接触位置の軌跡に沿って移動させる制御を続行し、
(f)前記処理(e)の続行中に前記接触状態が開放されたとき当該開放位置を終端位置として前記ドラッグ操作が確定したと判定する
ことを含む処理を実行するように構成されてなるビデオゲーム装置。

出願経過の参酌

さて、特許2の出願経過をざっと参酌すると、2回目の意見書において以下の主張しています。

第1に、『開始位置に表示されている選択された制御対象を、ドラッグ操作に基づく接触位置の移動中に、選択時の接触位置を開始の位置として該接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を開始する(第1の特徴的構成)』点、第2に、『移動を開始した制御対象を、接触状態が維持された状態にある接触位置の移動に遅れてこれに追従して接触位置の軌跡に沿って移動させる制御を続行する(第2の特徴的構成)』点です。

まとめると、軌跡に沿って移動させるという点と、その移動させるときに遅れて追従表示させるという点です。ドラッグ操作の移動についてはともかく、個人的にはこの「遅れて」という作用は、簡単につぶすことはできない気がします。

今後

イナイレをやったことが無いので本件製品が解らないですし、上記特許出願の実施形態を読んでいないのですが・・・
多分ユーザが操作すると、選手がそのユーザ操作に遅れて走って行くような挙動をしている部分が問題と言われているような気がします。似たような技術に、コンピュータのドラッグ操作もありますが、これらは通常、操作に連動して移動表示されます。また、最近のゲームでも、ドラッグで移動させる場合でも、結果として始点終点を検知し、その間のキャラクター移動は自由にしている構成も多いと思います。

このように製品が権利範囲に属する可能性が高いのであれば、訴訟までいかないことが殆どです。ニュースになると急に訴えた感があると思いますが、本件に限らず水面下では色々と普段からやり取りがあるものです。

実際無効理由があるから権利行使が認められない(特104条の3)だけの主張をするには、よほど無効を主張出来る自信がないと難しい気がします。「こんなの当たり前じゃないか」というのは、後から言えることで、当時は当たり前じゃなかったから特許になる訳です。例えば、削除キーを押したら文字が削除されるという当たり前のことも、「1990年以前の文献に基づいて客観的に証明しなさい」と言われると、当たり前過ぎて文献が中々見つからないこともあります。

何処まで争われるか解りませんが、今後どうなるか気になるところです。

ちなみに

ちなみに、最初の記事に書いてある分割出願。これは特許の手法としてよくやる手です。特許査定が確定してしまうと権利として動かせません。したがって、分割出願を残して、権利として宙ぶらりんのものを残存させておきます。これによって、他社の実施形態に合わせた請求項を作り込むことができるのです。特に最近は特許査定後の分割出願も可能です。
出願時期との関係もありますし、最近は審査も早くなってきているのですが、それでも有効な手の一つであることには変わりません。