意38条2号について(長文)

よく質問があるところなので、説明しておきます。
意匠法38条2号は間接侵害の規定です。

第38条
次に掲げる行為は、当該意匠権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
二 登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品を業としての譲渡、貸渡し又は輸出のために所持する行為

この条文の読み方が分からないという質問が多いです。

特に短答試験の過去問で以下の問題を解くときに混乱することが多いようです。

登録意匠に類似する意匠に係る物品を、自己ではなく第三者による業としての輸出のために所持する行為は、その行為が業としてでなければ、当該意匠権の侵害とみなされることはない。

条文を読むことは大切ですが、その前に条文のイメージが出来ている必要があります。
単純に文字だけを追っても、いたずらに混乱を招くだけです。

そもそも38条2号の間接侵害ってどういう規定でしょうか?
平成18年法改正で入った規定で、「侵害物品の譲渡等を目的としてこれを所持する行為をみなし侵害規定に追加」するために追加されたものです。

すなわち・・・仮に甲の意匠権に係る意匠イに類似する意匠ロがX店で売られているとの情報があったとします。
X店に権利行使をしようとしてX店に突撃してみると、

・店で意匠ロを販売した!→譲渡=侵害!
・意匠ロが店頭に並んでいる→まさに売ろうとしている→譲渡の申し出=侵害!

と権利行使可能です。

しかし、突撃したものの、タイミングが早く意匠ロは店の奥にありました。
まだ店頭に出ていなかったのです。
そうすると、上記行為に該当しないため、侵害にはならず、権利行使が出来ない訳です。
X店の店主にも、「売ってないよ!」と言い訳されてしまいます。

さて、侵害品が目の前にある。しかし、権利行使は出来ません。
店の奥に山積みになった意匠ロ・・・それを横目で見つつ、店先に並ぶ日まで毎日チェックする・・・
とても大変です。

そこで、侵害の一歩手前の状態、まさに間接侵害として「所持する行為」で権利行使が出来るようにした。
これが意38条2号です。
このとき、「所持」自体は業として行う必要はありません。
だって、X店は自分の店で売ろうとして置いているので、誰かからお金をもらっている訳では無いからです。

ちなみに、レンタルボックスや、貸倉庫等の業者が「業としての所持」をしている人になると思います。
そこは要件となっていないというのが、例えば上記短答過去問です。

さて、今度は「所持」が要件に入れると、侵害品と知らずに購入した乙さん。
X店で購入して、一歩外出た瞬間に「侵害者」になってしまいます。
これは乙さんにとってかわいそうです。
なので「所持」には主観的要件、すなわち「へへへ、侵害品を売るぜ!」という意図が必要なのです。
これが条文上「登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品を業としての譲渡、貸渡しのために所持」になります。

他の侵害と同様に「業として」という要件がまず入り、その後「譲渡、貸渡しのため」に所持することが必要となります。
更に、平成18年に「輸出」の概念が直接侵害に入りました。
だったら、ここでも「輸出」の概念を入れるべきです。
したがって「業としての譲渡、貸渡し又は輸出のため」になった訳です。

ここで、輸出については当然「業として」の要件が必要です。

産業財産権の効力は、業としての実施をする権利を専有するものであるから、みなし侵害とされる所持の目的行為である「譲渡」、「貸渡し」及び「輸出」行為も業として行われる場合が対象となる。(H18改正本 P.120)

条文の言葉は難しいので、文言から正確に読みこなすのはかなり難しいです。
まずはイメージをつかんでおけば、条文の文言が忘れた場合でも、問題を解くことが出来ます。

なお、改正本には、「使用」についても解説があるのでチェックです。

一方、「使用」行為については、使用と所持の行為態様が重複する場合が多いこと及び行為後に侵害品が広く市場に拡散してしまう危険性が低いことから、所持の目的としないこととした。