質問の回答〜商標法短答〜

今回質問がありましたので、回答いたします。
基本的に自分のスタンスは「条文」に忠実にです。判例沼にはまると抜け出すのが大変だと考えています。
実際理解が必要な判例は限られます。
また、判例を考えるときは「何が原則」で、「何が例外」かを意識する必要があります。
受験生は、どうしても判例インパクトが強く、原則と例外とを逆に考える(条文から離れる)傾向があるかと思います。

15−25−2

商標権者、専用使用権者のいずれもが自ら登録商標を使用していない場合には、得べかりし利益の喪失がないので、商標法第38条第3項に基づく使用料相当額の損害賠償請求は認められない。

まず、条文ベースの回答で行くとこれは「×」です。理由は通常使用権者が使用している場合があるからです。
当然通常使用権者が使用しても信用は化体されます(50条で通常使用権者も含まれています)。
そうすると、通常使用権をこの侵害者に許諾していれば、その分ライセンス収入が合ったはずです。
なお、条文上「商標権者」「専用使用権者」とあるのは損害賠償の請求主体の話であり、使用している者では有りません。
個人的にはそれが本問の題意だと思っています(あえて通常使用権者が入っていない意図を汲むべきかと思います)

さて、もう少し掘り下げて小僧寿司事件に絡めますと、小僧寿司事件はかなり例外的な規定です。
損害不発生の抗弁は必ず認められるとは限りません。
したがって、損害不発生の抗弁を仮に考えた場合、本問において「認められない場合がある」となれば「○」ですが、「認められない」とは言い切れないと思います。

19−2−1

甲は、商品「ドーナツ」に商標「ミルクドーナツ」を用いて販売していたところ、この売れ行きが好調で、全国各地から買いに来る人まで出てきたので、甲が実際に使用している態様の商標について、「ドーナツ」を指定商品として出願したが、この商標は登録されることはない。

こちらも条文ベースの回答でいくと「○」です。3条1項3号の条文は「普通に用いられる方法」の場合に該当します。
本問ではわざわざ「実際に使用している態様の商標」と文言が入っていますので、そこに意図を汲むべきかと思います。
(ロゴ化するほど特殊な形態であれば、混同も生じないため、4条1項16号も該当しないこともあるでしょう)

なお、仮にそこまで極端では無いとしても、「ミルク入りドーナツ」に補正し、3条2項の適用を受ければ登録になるでしょう。
問題文は「出願」したことしか記載がないからです。
それに対して「登録されることはない」は言い過ぎかと思います。

ミルクドーナツ事件もありますが、個人的にはそこまで考え無くても素直に読めば十分解ける問題かと思います(少なくとも、ミルクドーナツ事件では4条1項16号の適用がないという曖昧な理解より、補正したと考えた方が納得はしやすいかと思います)