防護標章について
追加で質問が来たのでお答えします。
テキストp.141の2と143の演習です。同一でも防護は登録出来てしまう。乙(下着のSUN)に、差止請求出来る。乙のSUN商標登録に関しては、言及されていない。乙も防護を登録したら、どうなるかと思ったのです。
LECの入門講座(商標)テキストのP.141の2(短答試験H16-25(2))。
他人に登録商標の範囲に防護標章が登録出来るか否かという問題です。
短答試験の問題になりますが、防護標章Yは、自己の商標Xが著名であり、混同を生じるところに登録することが可能です。
このとき、防護標章Yの登録要件として自己の商標Xとの関係だけをみて、他人の登録商標との関係は見ません。
この点が聞かれている問題になります。
この問題は、通常の商標権と防護標章とが問題となっており、それを重ねて設定出来るかという内容になります。
また、P.143ページは論文の問題です。
甲が商品「タオル」について商標「SUN」を使用し著名となり、商標登録を受けています。
乙が商品「下着」(タオルと非類似)について商標「SUN」を使用しているという場面です。
乙の商品について甲に苦情が来ているということから混同を生じている事が解ります。
この場合、非類似商品ですから、甲の登録商標の効力は及びません。
乙の登録は、4条1項15号で排除できますが、使用は阻止できません。
したがって、防護標章登録出願をし、登録防護標章に基づいて権利行使をするのが取り得る措置として適切です。
さて、ご質問通り、乙については商標登録に関して言及されていません。
この場合、「乙の商標登録」は気にする必要はありません。
なぜなら、まず本問は「甲が乙に対して取り得る措置」という問題ですから、甲の立場で解けば良い問題です。
試験問題(勉強)である以上、試験問題のルールに従って学習することが大切です。
ただ、折角ご質問がありましたので、「乙の商標登録」について検討して見ましょう。
まず、ご質問にある「乙が防護標章」という部分ですが、これは現実的には難しいでしょう。
そもそも「SUN」が甲のものとして著名となっています。
他社が同一ブランドで、同一商品で混同を生じる程著名になるという事例はかなりレアです。
例えば、ある会社が「TOYOTA」というブランドを使い続けても、自動車会社の著名商標の方が強いです。
また、「TOYOTA」という商標が、トヨタ自動車の商標と並ぶほど著名になるまで使いづけていたとした場合
トヨタ自動車がそこまで放置していたことに問題があります。
条文上、同一商品に他の防護標章は重ねて登録出来ますが、中々そのような場面になる可能性は少ないということです。
(例外的に、三菱のマーク(スリーダイヤ)等ありますが、本当に例外中の例外です)
例えばP.143演習で、甲乙両方商標登録しており、不具合が両方であり、両方に相手の苦情が来ていたら、とり得る処置は何なのか?という疑問です。そんな問題は出ないのかも知れませんが。
仮に甲・乙とも商標登録を受けており、両方とも専用権の範囲での使用であれば商標法上取り得る措置はありません。
不正競争防止法等も用いて争っていくことになると思いますし、そのときの使用状況、混同範囲等から一律に判断出来ないと思います(裁判所マターです)
ですので、問題文はそういう状態を排除し、甲が著名商標、乙が未登録商標と答えやすいようになっています。
弁理士試験は資格試験であり、試験問題として出題されます。
本質的にどうなるか?ではなく、出題条件の中、条文というルールを適用するとどうなるか?というものです。
ときどき短答試験等でも「○○の場合はどうなりますか?」というご質問を頂くことがあります。
しかし、その条件がそもそも成り立たない場合もあるのです。
試験問題は試験問題として、条文を理解する為のツールとしてご活用頂ければと思います。