無反応機器について

不正競争防止法で登場する無反応機器について質問があったのでお答えします。
2条1項10号、11号のところでは登場する機器ですので、少し説明しておきます。

まず、コピーを禁止するための方法ですが、例えば再生装置から「コピー制御信号」や「著作権信号」を通常の信号と一緒に出力します。
受信する装置は、その信号に基づいて「正しいもの」であれば「出力」したり「記録」することができます。

例えば、この場合、表示装置はコピーをするわけではないので問題無く表示されます。
最近では表示装置も対応していなければ、映像が表示されなかったりします(HDCP等)

次にダビング(コピー)について。
通常ダビングするときは、ビデオを2台接続します。
1台を再生、1台を録画にすればダビング可能です。

例えば、この場合、録画装置側では「著作権信号」において「COPY禁止」と指定されています。
したがって、録画動作をしようとすると、エラーが返され録画が禁止されます。
これにより、コンテンツを保護する訳です。
そして、この著作権信号を「YES」と書き換えたり、除去したりする装置が不正競争に該当する訳です。

さて、この装置ですが、例えば規格として2010年から導入されているとします。
そうすると、

2009年に発売された録画装置は対応していない訳です。
すなわち、仮に再生装置が「コピーだめだよ!」と言っていても、録画装置側で処理することが出来ない(解らない)ということになります。
このそもそも信号に反応出来ない機械を無反応機器と呼んでいます。
結果としてコピーが出来てしまいます。
しかし、そもそも録画装置を製造した段階では解らなかった訳ですし、購入者も知らない訳です。
したがって、このような装置は不正競争の対象とはしていないということです。

以下、参考用として技術的な話について(と、特許のお話)。




講義でよく話すβ方式の話について。
ちょっと難しいかもしれませんが、一応説明しておきます。

レンタルビデオ等のコピーを防止するために、コピー防止信号が導入されます。
ここで有名なものがマクロビジョン方式と呼ばれるものです。
この方式を簡単にいうと、まずビデオデッキに画像を調整する部品があります(AGC回路)。
このAGC回路に対して偽の信号を送ると、映像が乱れます。
それによって、ダビングをしようとして接続したビデオの方では映像が正しく表示されないという効果が得られます。
しかし、AGC回路はテレビには内蔵されていませんでしたので、テレビでは映像が正しく表示されます。

さて、当時ビデオは代表的な方式として「VHS方式」と「β方式」という2つの方式がありました。
このAGC回路は、VHS方式のビデオには搭載されていましたが、β方式のビデオデッキには搭載されていなかったのです。
結果としてβ方式のビデオを接続すれば、マクロビジョンの信号に反応しないため、コピーが出来てしまうということになっていました。
このとき、β方式のビデオが無反応機器となるわけです。

ちなみに、このマクロビジョン方式は特許が登録(特願昭61-87236/特許1925090号)されていました。

【請求項1】
 テレビジョン受信機上に標準的なカラー画像を生成すると共に満足なビデオテープ記録を妨げるように、同期パルスを含む帰線消去期間を持つビデオ信号を処理する方法において、
 処理されたビデオ信号の変更部分が前記テレビジョン受信機によって表示されないような実質的な垂直基線消去期間内に、前記同期パルスに続き、所定順序の偽同期パルスと正同期パルスの複数の対を前記ビデオ信号に負荷する工程を含み、
 前記付加された前記複数のパルス対がビデオテープレコーダの自動利得制御システムに誤ったビデオ信号レベルを検知させて、満足出来ないビデオテープ記録に帰着する利得補正を行わせることを特徴とするビデオ信号処理方法。

既に20年経っていますので、特許権は存続期間満了で消滅しています。

なお、この案件、拒絶査定不服審判、異議申立、無効審判、訂正審判、審決取消訴訟と、全ての手続が起きています。
まるで特許手続のデパートのような案件です。