SAPIX事件

元業界にいた人間なので、気になった判例です。

SAPIXの教材を解説している塾を、SAPIX小学部(株式会社日本入試センター)が不正競争防止法で訴えた事件です。
被告は、昔からよくある「大手学習塾の教材」を解説してくれる形態の学習塾です。

原告学習塾は,日能研,四谷大塚,早稲田アカデミー,市進学院,栄光ゼミナールなどとともに,中学校受験のための大手の学習塾の一つである。被告は,これらの大手の学習塾に通う生徒のために,各塾のテストの解説のライブ配信や復習用教材の作成等を行っている。

ここで、被告のホームページ等の表示についてが問題となりました。

(2) 被告のホームページ(甲4)には,次のとおりの表示がある。
ア ヘッダー部には,被告学習塾の名称である「中学受験ドクター」及び問合せのための電話番号が表示されている。
イ メインコンテンツ部の最上部には,囲み枠が表示され,その枠中には「塾別!今週の戦略ポイント」,「会員限定:SAPIX・日能研・四谷早稲アカの授業の要点を毎週解説!」との表示がある。また,そのすぐ下に設けられた囲み枠の枠内には「9月・10月・11月版 発売開始!」,「中学受験ドクターのプロ講師による」,「新 今週の戦略ポイント」,「SAPIX生のための復習用教材」(本件表示2),「9月10月11月 算数B国語ABテキスト対応」などの表示がある。そして,メインコンテンツ欄25 の下部には,「詳細な一覧を見る」ためのリンク先が表示されており,リンクの貼られた「SAPIX今週の戦略ポイント Daily Support」(本件表示3)等の表示をクリックするとその内容を見ることができるようになっている。

被告の授業スタイルですが

被告による原告学習塾のマンスリーテスト等の解説のライブ配信は,被告においてあらかじめ問題を入手した上で,問題の解説を口頭で行い,視聴者である生徒は問題をあらかじめ手元に用意した上で,その解説を聴くという形式で行われるものである。

この記載からみると、問題とかを写したり、読み上げたりは一切していないということなのでしょうか?
その為、著作権法ではなく、不正競争防止法で争われたと思われます。

さて、不正競争防止法における商品等表示の使用は、裁判所は以下の通りであると説明しています。

2条1項1号にいう「使用」というためには,単に他人の周知の商品等表示と同一又は類似の表示を商品等に付しているのみならず,その表示が商品等の出所を表示し,自他商品等を識別する機能を果たす態様で用いられていることを要するというべきである。

そして、被告の使用態様から、出所を表示し、自他商品等を識別する機能を果たす態様で用いられていないと判断しています。

被告のホームページには,そのヘッダー部に被告学習塾の名称が表示され,またメインコンテンツ部には「中学受験ドクターのプロ講師による」との記載があるのであるから,同ホームページに掲載されたサービスの提供主体が被告であることは明らかである。

メインコンテンツ部の最上部の囲み枠に「塾別!今週の戦略ポイント」「SAPIX・日能研・四谷早稲アカの授業の要点を毎週解説!」などと記載されていることによれば,被告が原告学習塾のみならず他の大手学習塾の授業の解説を行っていることは容易に理解し得る。
その上で,本件表示1~3をみると,本件表示1(「SAPIX8月マンスリー」)は,その表示がされたバナー内の他の記載と併せ考慮すると,被告の行うライブ解説の対象が原告学習塾のマンスリーテストであると理解し得るのであり,その解説の主体が原告又はその子会社等であることを表示するものではなく,またそのように誤認されるおそれがあるとは認められない。

また、混同についても、中学受験の保護者という需要者を考えると、誤認するおそれはないと判断しています。

中学校受験を目指す生徒及び保護者は,塾により教授法や合格実績が異なることから,いずれの塾を選択するかという観点から,学習塾の授業,テスト等の提供主体について強い関心を有するのが一般的である。
さらに,志望校に合格するためには,大手学習塾においてより上位の組に所属し,また当該学習塾の実施するテスト等において上位の成績をとることが望ましいことから,大手学習塾の問題や教材を補習するサービスを提供する学習塾が被告のほかにも存在しており(乙9~11),保護者等もそのような学習塾が存在することを認識していたと考えられる。このような中学校受験のための学習塾の営業実態に照らしても,本件各表示に接した生徒又はその保護者は,被告の行っている問題の解説や復習用教材の作成の主体が原告又はその子会社等であると誤認混同するとは考えられない

ということで、不正競争防止法における請求は認められませんでした。

なお、今回の件は上述したように著作権侵害がなかったようです。
このような場合の著作物の利用についても争われています。

本件においては,被告が原告の著作権を侵害したと認めるに足る証拠はないところ,著作物に係る著作権侵害が認められない場合における当該著作物の利用については,著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異な
る法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないというべきである(最一小判平成23年12月8日民集65巻9号3275頁参照)。
本件についてみるに,原告は,被告が原告作成に係る問題等を入手し,ライブ配信などの方法でその解説をするのは原告のノウハウにただ乗りするものであると主張するが,大手学習塾に通う生徒やその保護者の求めに応じ,他の学習塾が業としてその補習を行うこと,すなわち,当該大手学習塾の授業内容を理解し,又はその実施するテストの成績を向上させるため,当該大手学習塾の問題や教材を入手し,その解説等を行うとのサービスを提供することは,自由競争の範囲を逸脱するものではなく,そのような営業形態が違法ということはできない。

結局、こちら(一般不法行為)も認めませんでした。


昔からこの手の学習塾はあり、実際個別学習塾では、よくあるスタイルです。
ただ、最近は動画配信で説明したりまでするようで、「やり過ぎじゃないか?」ってことで訴訟になった気はします。
例えば、自分が「LECの短アドを持ってきて下さい」といって、短アドを使って異なる受験機関として講義をするような感じです。

SAPIX側の言い分も、気持ちとしては解らなくもない事件でした。
(自分としても、原告側に近い立場で勤務していたので)


今回は、元業界にいた人間として、取り上げてみました。