自動仕訳の事件について

フリーvsマネーフォワードの事件について

フリーvsマネーフォワードの事件について色々と話題になりました。
判決文も裁判所で公開されています。

色々と注目を集めた判例でした。
実際クライアントから問合せがあったりもしました。

上記のように解説サイトもあったりと、色々と参照して頂ければ色々な記事や弁理士さんの見解はあると思います。
ただ、自分自身もメモとして、気になった点について書いておきます。

自分が気になっているのは、当然「出願をする上で」という点です。

フリーの特許

フリーの特許は、いくつかありますが、争点となっているうちの一つは、以下の通りです。

ウ 本件発明13
13A ウェブサーバが提供するクラウドコンピューティングによる会計処理を行うための会計処理方法であって,
13B 前記ウェブサーバが,ウェブ明細データを取引ごとに識別するステップと,
13C 前記ウェブサーバが,各取引を,前記各取引の取引内容の記載に基づいて,前記取引内容の記載に含まれうるキーワードと勘定科目との対応づけを保持する対応テーブルを参照して,特定の勘定科目に自動的に仕訳するステップと,
13D 前記ウェブサーバが,日付,取引内容,金額及び勘定科目を少なくとも含む仕訳データを作成するステップとを含み,作成された前記仕訳データは,ユーザーが前記ウェブサーバにアクセスするコンピュータに送信され,前記コンピュータのウェブブラウザに,仕訳処理画面として表示され,前記仕訳処理画面は,勘定科目を変更するためのメニューを有し,
13E 前記対応テーブルを参照した自動仕訳は,前記各取引の取引内容の記載に対して,複数のキーワードが含まれる場合にキーワードの優先ルールを適用し,優先順位の最も高いキーワードにより,前記対応テーブルの参照を行う
13F ことを特徴とする会計処理方法。

裁判所の解釈

本願発明の解釈

このクレームに対して、裁判所は以下のように解釈していきます。

第3 当裁判所の判断
1 争点1(文言侵害の成否)について
構成要件13C及び13Eについて
ア 構成要件13C及び13Eの解釈
前記のとおり,本件発明13の構成要件13Cは,「前記ウェブサーバが,各取引を,前記各取引の取引内容の記載に基づいて,前記取引内容の記載に含まれうるキーワードと勘定科目との対応づけを保持する対応テーブルを参照して,特定の勘定科目に自動的に仕訳するステップと,」というものであり,構成要件13Eは,「前記対応テーブルを参照した自動仕訳は,前記各取引の取引内容の記載に対して,複数のキーワードが含まれる場合にキーワードの優先ルールを適用し,優先順位の最も高いキーワードにより,前記対応テーブルの参照を行う」というものである。
そして,①テーブルとは,「表。一覧表。」(広辞苑第6版)の意味を有することからすると,本件発明13における「対応テーブル」とは,結局,「取引内容の記載に含まれうるキーワードについて対応する勘定科目を対応づけた対応表のデータ」を意味すると解されること,②仮に取引内容に含まれた1つのキーワード以外のキーワードも仕訳に使用するのであれば,「優先順位の最も高いキーワードを選択し,それにより対応テーブルを参照する」ことをあえて規定する意味がなくなるし,「対応テーブル」(取引内容の記載に含まれうるキーワードについて対応する勘定科目を対応づけた対応表のデータ)をどのように参照するかも不明になること,③本件明細書においても,取引内容に含まれた1つのキーワードのみを仕訳に使用する構成以外の構成は一切開示されていないこと,以上の諸点を考慮して,上記構成要件の文言を解釈すると,結局,本件発明13は,「取引内容の記載に複数のキーワードが含まれる場合には,キーワードの優先ルールを適用して,優先順位の最も高いキーワード1つを選び出し,それにより取引内容の記載に含まれうるキーワードについて対応する勘定科目を対応づけた対応テーブル(対応表のデータ)を参照することにより,特定の勘定科目を選択する」という構成のものであると解すべきである。

今回、裁判所が注目している部分の1つに、「テーブルを用いた選択」があります。
この「テーブル」の解釈について、広辞苑の意味からテーブルを持ってくるあたりはよくある話しです。
なので、この手の文言は「解っているだろう」と明細書に書かないと、結構困ったりします。

さて、裁判所は、結局明細書の記載を参酌等して、本願発明については、1つのキーワードを用いてテーブルから勘定科目を選択していると解釈しています。

被告製品の解釈

それに対して、マネーフォワード側は、機械学習で勘定科目を選択している点を主張しました。
その点について、裁判所は以下のように解釈しています。

入力例①及び②によれば,摘要に含まれる複数の語をそれぞれ入力して出力される勘定科目の各推定結果と,これらの複数の語を適宜組み合わせた複合語を入力した場合に出力される勘定科目の推定結果をそれぞれ得たところ,複合語を入力した場合に出力される勘定科目の推定結果が,上記組み合わせ前の語を入力した場合に出力される勘定科目の各推定結果のいずれとも合致しない例(本取引⑥⑦⑭)が存在することが認められる。例えば,本取引⑦において,「商品店舗チケット」の入力に対し勘定科目の推定結果として「仕入高」が出力されているが,「商品店舗チケット」を構成する「商品」,「店舗」及び「チケット」の各単語を入力した場合の出力である「備品・消耗品費」,「福利厚生費」及び「短期借入金」(本取引①ないし③)のいずれとも合致しない。
また,入力例③及び④によれば,摘要の入力が同一であっても,出金額やサービスカテゴリーを変更すると,異なる勘定科目の推定結果が出力される例(本取引⑮ないし⑱)が存在することが認められる。
さらに,入力例⑤及び⑥によれば,「鴻働葡賃」というような通常の日本語には存在しない語を入力した場合であっても,何らかの勘定科目の推定結果が出力されていること(本取引⑲ないし㉒)が認められる。
以上のような被告による被告方法の実施結果によれば,原告による被告方法の実施結果を十分考慮しても,被告方法が上記アのとおりの本件発明13における「取引内容の記載に複数のキーワードが含まれる場合には,キーワードの優先ルールを適用して,優先順位の最も高いキーワード1つを選び出し,それにより取引内容の記載に含まれうるキーワードについて対応する勘定科目を対応づけた対応テーブル(対応表のデータ)を参照することにより,特定の勘定科目を選択する」という構成を採用しているとは認めるに足りず,かえって,被告が主張するように,いわゆる機械学習を利用して生成されたアルゴリズムを適用して,入力された取引内容に対応する勘定科目を推測していることが窺われる
なぜならば,被告方法において,仮に,取引内容の記載に含まれうるキーワードについて対応する勘定科目を対応づけた対応テーブル(対応表のデータ)を参照しているのであれば,複合語を入力した場合に出力される勘定科目の推定結果が組み合わせ前の語による推定結果のいずれとも合致しないことや,摘要の入力が同一なのに出金額やサービスカテゴリーを変更すると異なる勘定科目の推定結果が出力されることが生じるとは考えにくいし,通常の日本語には存在しない語をキーワードとする対応テーブル(対応表のデータ)が予め作成されているとは考えにくいからそのような語に対して何らかの勘定科目の推定結果が出力されることも不合理だからである。

すなわち、被告側の主張通り「機械学習で勘定科目を選択している」点を認定し、原告の方法とは異なるというものです。
この後均等の主張等もしていますが、結局認められませんでした。

出願をする上で気になる点

自分も明細書を記載する上で、将来の侵害パターンを想定して記載はかなり拡張しますが、それでも総てをカバーできるものではありません。

今回気になったのは「テーブル」の記載についてです。
ソフト系の明細書では、何かの項目に基づいて判定することは一般的に行われ、その点をクレームアップすることは多々あります。
自分の場合「テーブル」自体をクレームの構成要件に挙げることは少ないですが、それでも前提としては「キーワード」に基づいて「勘定科目」を選択するという部分(思想)は構成要件に入れやすいところです。

しかし、単純な判定では、最近の機械学習や、ニューラルネットワークを利用した判定方法では従来の書き方では技術的範囲から外れてしまうことが考えられます。
となると、その点を意識して案文を作成していないと、同じ結果であるにも関わらず、権利行使が出来ない特許となってしまいます。

今後は、出願人から特に話がない場合でも、機械学習等の人工知能の適用性というのは、検討する必要があると感じた判例でした。