改正TRIPS協定(31条の2)

TRIPS協定の改正が発効されました。元々は平成19年に決まっていた内容が、やっと発効されることになったというものです。

1 1月23日(現地時間),「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定を改正する議定書」(以下「改正議定書」という。)が,我が国を含む世界貿易機関WTO)の全加盟国の3分の2に当たる110加盟国が受諾したため,世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(以下「WTO協定」という。)の規定に基づき,受諾した加盟国の間で発効しました。
2 この改正議定書は,特許の「強制実施許諾」(注1)等の要件を定めるTRIPS協定第31条に関し,新たに第31条の2及び附属書を追加し,第31条(f)に規定する加盟国の義務を一定の条件の下で適用しないものとするものです(注2)。この改正は,開発途上国における公衆の健康の問題に対処するため,特許権者以外の者が感染症に関する医薬品を生産し,これらの諸国に輸出することを可能にすることを目的としています。
3 改正議定書の発効により,医薬品の生産能力が不十分又は無い国におけるエイズ結核マラリア等の感染症に関する公衆の健康の問題に対処する際の医薬品の生産,輸出における法的安定性の確保が期待されます。

簡単に言えば、31条の2が追加されます。
詳しい趣旨は、外務省の当時の資料だと以下の通りです。

  • 医薬品の生産能力が不十分又は無い国(主に後発開発途上国)においては、HIV/AIDS、結核マラリア等の感染症等による公衆の健康の問題に対処するためには、外国からの医薬品の輸入に頼らざるを得ない。しかし、医薬品の製造能力を有する国が、自国において特許権が付与された医薬品(注1)をこれらの諸国への輸出のために生産することにつき「強制実施許諾(注2)」を与えることは、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)第31条(f)に抵触する恐れがあった。
    • (注1)特許権が認められている場合、特許権者以外は、原則として、特許権者から実施許諾を受けなければ、特許発明に係る物の生産・販売等を行うことができない。
    • (注2)強制実施許諾とは、政府が、特許権者の許諾を得なくても特許発明を実施する権利を第三者に認めること。
  • そこで、開発途上国における感染症等による公衆の健康の問題に対処するため、TRIPS協定上の「強制実施許諾」に関する規定の一部を一定の場合において不適用とする規定(第31条の2)を追加することとした。

なお、以下に条文を掲載しておきます。

31条の2
1 前条(f)に規定する輸出加盟国の義務は、この協定の附属書の2に定める条件に従い、医薬品を生産し、及びそれを輸入する資格を有する加盟国に輸出するために必要は範囲において当該輸入加盟国が与える強制実施許諾については、適用しない。
2 この条及びこの協定の附属書に規定する制度の下で輸出加盟国が強制実施許諾を与える場合には、当該輸出加盟国において許諾されている使用が輸入する資格を有する加盟国にとって有する経済的価値を考慮して、当該輸出加盟国において前条(h)の規定に基づく適当な報酬が支払われる。輸入する資格を有する加盟国において同一の医薬品について強制実施許諾を与える場合には、同条(h)に規定する当該輸入する資格を有する加盟国の義務は、輸出加盟国において前段の規定に従って報酬が支払われる当該医薬品については、適用しない。
3 医薬品の購買力を高め、及びその現地生産を促進するために規模の経済を活用することを目的として、開発途上国又は後発途上国である世界貿易機関の加盟国が、1994年のガット第24条及び異なるかつ一層有利な待遇、相互主義及び開発途上国の一層完全な参加に関する1979年12月28日付けの決定(文書番号L/4903)に規定する地域貿易協定であって、その締約国の少なくとも半数が国際連合の後発途上国の一覧表に現に記載されている国から成るものの締約国である場合には、前条(f)に規定する当該加盟国における強制実施許諾に基づいて生産し、又は輸入した医薬品を、関係する健康に関する問題を共有する当該地域貿易協定の他の開発途上締約国又は後発開発途上締約国の市場に輸出することができるようにするために必要な範囲においては、適用しない。このことは、関係する特許権の属地的な性格に影響を及ぼすものではないと了解する。
4 加盟国は、この条及びこの協定の附属書の規定に従って取られる措置に対し、1994年のガット第23条1(b)及び(c)の規定に基づいて異議を申し立ててはならない。
5 この条及びこの協定の附属書の規定は、加盟国がこの協定の規定(前条(f)及び(h)の規定を除く。)に基づいて有する権利、義務及び柔軟性(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定及び公衆の健康に関する宣言(文書番号WT/MIN(01)/DEC/2)において再確認されたものを含む。)並びにそれらの解釈に影響を及ぼすものではない。この条及びこの協定の附属書の規定は、強制実施許諾に基づいて生産される医薬品を前条(f)の規定に基づいて輸出することができる範囲に影響を及ぼすものではない。