AIによる弁理士業

一回ブログで書いたと思ったけど、調べたら書いてなかったので今の時点での個人的な考え方です。
10年後に「違ってた!」って思うかもしれないので。

例えば、以下の記事が昨日付で上がっていたのですが、これだけに限らず、よくある内容です。
toyokeizai.net

この手の記事で、よく「弁理士業が人工知能に置き換わる」と言われています。
確かに、テキストデータとしては特許公報は膨大な数がありますし、まさに人工知能が処理をするのには最も適切な状態だと思います。

ただ、殆どの人が「弁理士の仕事」をご理解頂けてない、もっと言うと「明細書」と「特許請求の範囲」との違いが分かっていない状態の記事だと思っています。

基本的に「人工知能に置き換わる」というのは、「正解がある」ものだと思っています。
例えば、病気の診断であったり、翻訳であったり、「正解がある」もの。
その正解が「教師データ」となって、人工知能は学習していきます。

さて、特許出願の仕事(書類作成)ですが、正解はあるのでしょうか?
もしかしたら、明細書については、細かいテクニックは別として、正解に近い形はあるのかも知れません。
弁理士は中間対応や、権利行使といったことを考えて明細書を作成しますが、ある程度のパターンはできています。
小説や歌がAIで作られることが可能な事実を考えると、明細書も人工知能で作成できる時代がくるのかもしれません。


それに対して「特許請求の範囲」については、ほぼ「正解がない」状態です。
これは弁理士のスキル以前に、出願人が求めている内容、発明の活用の仕方で記載内容がかなり変わってきます。

例えば、デジタルカメラの発明を考えた場合、そもそも発明の名称(特許請求の範囲)から出願人によって変わってきます。
「デジタルカメラ」「カメラ」「撮像装置」「画像処理装置」「情報処理装置」・・・。
これはどれが正解というものではないのです。

上位概念化を嫌う出願人もいますし、逆に極力上位概念で記載する出願人もいます。
プリアンブル部分を書けという出願人もいれば、構成要件を全て列挙して欲しいという出願人もいます。
クレームの書き方は、本当に出願人(もっというと知財担当者)によってバラバラです。

また、そもそも発明のうち、どこをポイントにするのか?というのも、同じ明細書であっても1つではありません。
だからこそ、1つの出願(同じ明細書)から分割出願が何個も生まれたりします。

そして、特許請求の範囲が変われば、明細書の記載も変わってきます。
それらのことを踏まえて、弁理士は出願人毎に対応を変えて書類を作成しています。
そうなると、単純に「テキストデータで処理をしやすい」からといって、弁理士の仕事が完全に置き換わるか?と言われると難しいと思っています。


もしかしたら、明細書の大部分については、将来的に人工知能が作成することになるかも知れません。
ただ、そうなれば弁理士としては、特許請求の範囲に労力を集中すればよい話です。

ただ、意匠・商標の類否判断等は、現在もディープラーニングを使った類否判断サービスが一部提供されだしています。
それは、「類似している」という正解(教師データ)を与えることが可能だからでしょう。
現在は完璧なシステムではないとしても、これから精度はドンドン高くなると思います。


ということで、人工知能に置き換わるというより、人工知能を活用して弁理士業を進めていくことになるのだと思っています。