ゴト師株式会社

タイトルで解る人がどれだけいるのやら・・・
根津甚八さん主演の映画でした。
簡単に言うと、パチンコ/パチスロの裏ROMを巡る映画です。

パチンコ/パチスロにおいて、出玉等について色々ルールがあります。
それは射幸心を必要以上に煽らないという理由からです。
例えば・・・

  • 大当たりをしても1000発しか出ませんよ。
  • 大当たりは100回に1回の確率ですよ。

と決まっています。

それは「当店は大当たりは10000発出ます!」と自由に出来てしまうと、当然お客さんはそのお店に流れます。
ここで、全部が当たりやすくする必要はありません。
例えば100台に1台だけ大当たりしやすい台にします。
残りは普通の台や、逆に「大当たりしても500発しかでない」といったことにできます。

どんなに負けていても「大当たりすれば一発逆転出来るかも!」と、お客さんはドンドン熱くなります。自分はいつか当たる!と思う、博打打ちの悲しい性です。

そういう射幸心を煽らないよう、ルールが決められています。
これらの制御情報はCPUに書き込まれ、パチンコ/パチスロ台の基板に取り付けられています。
このCPUは勝手に交換できないようになっています。
そして、警察がいつでも見て検査が出来るよう、CPUが見える状態で透明のカバーを付け封印します。
もし、CPUが違法なもの(裏ROM)に交換されても、警察が気がつくようにです。

そうはいっても、改造する人がいます。
甲さんもそんな一人でした。
正規品を改造して、裏ROMを作りました。

改造した裏ROMを取り付けると、警察に見られてしまうと当然ばれてしまいます。
そこで、見てもばれないように、本物と同じCPUに見た目も偽造します。
裏ROMに書いてあったCPUメーカー、形式番号を削ります。
そこに、正規品のCPUと同じ「SHARP」を付して、型式番号も同じものを印刷します。見た目は正規品のCPUと全く同じになったのです。

ただ中味は違いますので、検査(ROMリーダ等を利用した照合)をすれば改造品と一発で解ります。
そこで甲さんは逮捕されてしまいます。

裏ROMを使った店舗については風営法による営業停止等の処分がありますが、裏ROMを作る行為自体は、中々取り締まることが出来ません(現行法は解りません)。

ここで、当局は考えました。
裏ROMのCPUに「SHARP」って付してあります。
第三者が勝手に他人の商標を付している訳です。
そこで、商標権侵害として摘発!となったのが、皆さんご存じ「パチスロ機事件」です。

ここまでで解るように、この事案はかなり特殊です。
通常の商標権侵害事件(民事等で争われるもの)とはちょっと前提が違っています。

大阪地裁(平成7年1月23日/平成4年(わ)第657号)では、最初無罪となってしまいます。理由はいくつかあるのですが、例えば、

本件CPUに付されて残存する標章が、本体である「リノ」の商標として用いられていると言えないことは明らかであり、また、本件CPUは、「リノ」に組み込まれることによって、商品としての独立性を失い、これに残存する標章は、商標法上保護されるべき商品識別機能を失なうと認めるべきである。
 そうすると、被告人が、本件CPUを「リノ」の部品として組み込んで販売した行為は、本件商標の使用行為に当たらないし、右販売目的でこれを所持した行為もその予備的行為には当たらないと解される。

他にも、

検察官は、CPUは、パチスロ機の機能を決定付ける最も重要な部品であって、買主としても、その製品に注意を払うことが通常であるとも主張するが、関係証拠によると、本件のような回胴式遊技機の場合、購入者が着目しているのは遊技機本体の機能であると認められ、買主が本体の機能のみならず、その主基板に装着されたCPU自体に注意を払っていたと認めるべき証拠はない。また、そもそも回胴式遊技機において、本体の機能を決定付けるのはプログラム(ソフトウェア)であって、「リノ」においても、本来のCPUは、Z80型の汎用品であれば、製造メーカーの異なるものでも何ら差し支えなかったことは前記認定のとおりであるから、本体の機能に着目する買主が、それゆえにCPUに着目するという関係にはなく、買主がCPUに注意を払うことが通常であるとも言えない。

と判断されました。

これらの判断が高裁、最高裁で覆され、結論としては侵害が認められた(侵害罪が成立した)のは、皆さんがご存じの通りです。
しかし、何となく、地裁判例もよんで「なるほど」って少し思ってしまいます。

パチスロの仕組み

上述したパチスロの仕組みについては、判例で以下のように説明されています。
試験には全く関係無いのですが、参考まで。

1 回胴式遊技機「リノ」は、筺体、回胴部分、主基板、電源基板等から構成されており、そのCPUは、「リノ」の筐体内に取り付けられる主基板に、他の電子部品とともに、直接半田付け、または半田付けされたソケットに差し込んで装着される。
主基板は、同機の本来のプログラムを格納するロム以外の全部品(CPUを含む)を装着した段階で、日本電動式遊技機工業協同組合(以下「日電協」という。)に持ち込まれ、同組合において、予め各回胴式遊技機製造業者が保通協に届け出て検定に合格しているのと同一のプログラムを書き込んで保管しているロムが装着された後、CPU、ロム、ラムの三種類の部品について、部品から基板にかけて、日電協の支給する封印シールが貼付され、さらに主基板全体を透明あるいは半透明のプラスチックケースで覆った上で、同ケースにも封印シールが貼付される。
この封印作業は、回胴式遊技機の製造業者において、これらの部品に細工をするなどして決められた出玉率を変更する等の改造を行うことを防止するためになされるものであり、その際、CPUについても、予め業者が保通協に対して届け出ている互換表に掲げられている部品が使用されているかどうかが検査される(ただし、若干数の抜き取り方式であり、全基板についてではない。)。
「リノ」については、主要部品としてシャープ製のZ80型CPU製品番号LH0080B、代替部品としてメーカーの異なる三種類の汎用Z80型CPUが届け出られていた。なお、CPUの封印シールは、部品の中心部を避けて貼付されており、封印された主基板に装着されたCPUの印字部分は、ケースを通してもこれを視認することができる。
2 被告人らは、予め本件CPUを装着した主基板を日電協に持ち込んだり、既に汎用品のCPUが組み込まれていた主基板のCPUを本件CPUに取り替えるなどして、本件CPUを装着した主基板を製造していた。
3 封印シールの貼付された「リノ」の主基板は、ティエフコンセプト系列の販売会社であるニイガタデンシにおいて、遊技機本体とは別に保管され、ニイガタデンシまたは中間の販売業者からエンドユーザーであるパチンコ店に「リノ」が販売された段階で、注文に応じてそれぞれを直接パチンコ店に配送し、販売元において同機を組み立てて設置する。4 設置完了後、届け出られた封印シールの番号と、実際に設置されている遊技機の基板の封印シールの番号が一致しているかどうかの検査が公安委員会(警察署が実施する)によりなされ、許可(新規の場合)または承認(入れ替えの場合)がなされると営業を開始することができる。
5 主基板は、「リノ」本体とは別に、パチンコ店に備え置く補修部品一式として販売されることがあり、「リノ」が故障し、その原因が主基板にあると考えられるような場合には、主基板全体が交換される。