商標法の活用法

商標法について、考えさせられる面白い記事(事件)があったので、ご紹介。
少し長いです。

リンク先と併せて読んでいただけると幸いです。

宇都宮地方裁判所が6月24日、Adobe Systemsの商標権を侵害したとして、長野県内の30代の男性に対して有罪判決を下した。BSAが7月12日、発表した。ソフトウェアのクラックマニュアルの販売における広告としての商標の利用が、商標法違反にあたるとされたもの。

男性は、2015年2月16日ごろ、「Adobe Photoshop」の認証を不正に回避するクラックプログラムの保存先URLや使用方法などを記載したマニュアルを「ヤフオク!」に出品。その際に無許可で登録商標に似せた商標を掲載し、商品の広告を行ったとして、商標法違反で2015年11月23日に逮捕、12月14日に起訴されていた。
(略)

ネットにおいて「こうやれば、無料でAdobeのソフトが使えますよ」と裏マニュアルを販売していた人に対する事件です。
この裏マニュアルに「Adobe」のロゴがあった(?)ために、商標法違反で実刑(2回目のため)となった事案です。

上記事件の判決文が読めず、リンク先及びBSAの発表でしか解りませんが、被告人は「商標的使用態様には該当しない」と主張したようです。
ただ、裁判所は「広告的使用」に該当し、商標権侵害と認めたようでした。

結局、このような事案の場合、処罰する法律として「商標法」が活用されているというものです。
刑事事件として商標法が登場するというのは珍しくなく、例えば、パチスロ機事件についても、同様な活用法(?)でした。

さて、このような裏マニュアルについては、他にも事案がありました。
神戸地裁(平成27年9月8日/平成27年(わ)第161号)においても、同じ話となっています。こちらは、MSのOffice 2013や一太郎が対象となった事件です。

判決文を読むと、Office 2013についてはクラックプログラムと共に、一太郎については製品(?)のダウンロード先を裏マニュアルに書いていたようです。
参考までに、以下判決文から。

office 2013

事実は以下の通りです。

不正の利益を得る目的で,法定の除外事由がないのに,平成26年4月18日から同月19日までの間に,2回にわたり,肩書住所地の自宅で,マイクロソフトコーポレーションがその製品であるソフトウェア「Microsoft Office Professional Plus 2013」について,ソフトウェアのライセンス取得者以外の者によるソフトウェアのプログラムの実行を制限するために用いているライセンス認証システムの効果を妨げることにより,ソフトウェアのプログラムの実行を可能とする機能を有するプログラムであるA及びBを,東京都千代田区a町b丁目c番d号eビル内に設置されたC株式会社が管理するサーバコンピュータの記憶装置に記憶・蔵置させた上,同年6月7日,前記各プログラムの蔵置先URL情報を記録した圧縮ファイルDの蔵置先URLを,インターネットオークションの落札者であるEに通知し,同人が前記各プログラムを取得し得る状態にして提供して,営業上用いられている技術的制限手段により制限されているプログラムの実行を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有するプログラムを電気通信回線を通じて提供し,不正競争を行った。

これに対して、不正競争防止法2条1項12号(現行法。判決文は旧法11号)に該当するというものでした。

被告人は,1ないし3のとおり,単に落札者に認証回避プログラムの蔵置先URLを通知しただけでなく(3),自ら認証回避プログラムを自分が使用する登録名に割り当てられた記憶領域に記憶・蔵置させ,これを他のインターネット利用者が閲覧,取得できるように設定しているから(1,2),一連の行為が情報ないしノウハウの提供にとどまらないことは明らかであって,不正競争防止法2条1項11号にいうプログラムの提供に該当する行為に及んだと認めるのが相当である。

クラックプログラムがあったために、不正競争防止法に該当すると判断されているのだと思います。

一太郎

事実は以下の通りです。

商標の使用に何ら権限がないのに,平成26年7月27日,同市jk番地l店で,インターネットに接続されたパーソナルコンピュータから,前記サーバコンピュータに接続し,その記憶装置内に,株式会社ジャストシステムが電子計算機用プログラムを指定商品として商標登録を受けている「一太郎」の標準文字からなる商標(商標登録番号第5039245号)に類似する商標を,「一太郎2014 徹 スーパープレミアム(ダウンロード版)」と称する電子計算機用プログラムに関する販売広告を内容とする情報とともに記憶・蔵置させ,これをインターネットサイト上に掲載した上,同日から同月30日までの間,Iら同サイトを利用する者にインターネット回線を通じて提供して閲覧させて,株式会社ジャストシステムの商標権を侵害する行為とみなされる行為を行った。

一太郎にはクラックプログラムがないので商標法違反で有罪となっています。

関係各証拠によれば,被告人がインターネットオークションサイト上に掲載したのは,「一太郎2014 徹 スーパープレミアム(ATOK2014搭載)」という標章(以下「本件標章」という。)が付された商品であり,その出品画面には,商品の説明として,ジャストシステムのホームページ上に記載されていたMのパッケージ画像や商品の落札価格,及びダウンロード版である旨の記載がされている。
商標の類似性は,弁護人が指摘するとおり,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが(最高裁昭和39年(行ツ)第110号昭和43年2月27日第3小法廷判決民集22巻2号399頁参照),上記のとおり,本件標章は,その外観上,ジャストシステムが商標権を有する「一太郎」と同一であり,出品画面に掲載されている商品の画像も,同社のホームページ上のパッケージ画像と同一であるから,そのような外観等が与える印象からすると,被告人が出品した商品がジャストシステムが販売する商品と誤認混同を生ずるおそれがあることは明らかであり,商標の類似性が認められるというべきである。
そして,そもそも誤認混同を生じるおそれの対象は取引の相手方ではなく,商品の出所であるから,これを混同する点で弁護人の主張は誤っている。また,被告人は中古品であることを明記して出品していたわけではないから主張の前提に誤りがある上,不正競争防止法違反について検討したとおり,被告人が出品したものがマニュアルにとどまらないことは明らかであり,廉価で出品されたからといって直ちに出所の誤認混同のおそれがなくなるともいえない。

このような事件において、商標法違反という感覚となじまないかも知れません。
しかし、このような場面でも商標法が問題となり、そして商標の使用として判断されるのが、実は商標法が一番面白いと思える部分だと個人的には思います。